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問1の答
(ア)…{[H+][HS-]}/[H2S]
(イ)…{[H+][S2-]}/[HS-]
(ウ)…[H+]2/(K1K2) + [H+]/K2 + 1
(エ)…[Cu2+][S2-]
(オ)…大きく
● 式(1)と(2)の平衡反応において,
H2S(aq) ⇄ H+(aq) + HS-(aq) …(1) HS-(aq) ⇄ H+(aq) + S2-(aq) …(2)
各平衡定数 K1と K2 は, 「質量作用の法則」の定義に従って, 溶液中の左辺の平衡状態での物質のモル濃度を分母に, 右辺の物質のモル濃度を分子に持ってきて, 次のように表わされる。
K1 = {[H+][HS-]}/[H2S] …(ア) K2 = {[H+][S2-]}/[HS-] …(イ)
● 水溶液中に含まれる硫化水素の全量の濃度を C (mol/L) は, 最初に, 気体の硫化水素が水に溶ける物質量に相当する。そこで, 硫化水素において,
全量の濃度 C (mol/L) の1部の濃度 a (mol/L) が次のように変化するとしたら,
H2S(aq) → H+(aq) + HS-(aq) …(i)
(1)と(i) を考慮すると,
[H2S] = C - a
生成されたH+(aq)の濃度 = a
生成されたHS-(aq)濃度 = a
生成されたHS-(aq)において, 濃度 a (mol/L) の1部の濃度 b (mol/L) が次のように変化するとしたら,
HS-(aq) → H+(aq) + S2-(aq) …(ii)
(2)と(ii) を考慮すると,
[HS-] = a - b
[S2-] = b
[H+] = a + b
以上の式において, [H2S] = C - a, [HS-] = a - b, [S2-] = b を使用すると,
C = [H2S] + [HS-] + [S2-]
一方, Cは, 簡潔に考えると, 硫化水素 H2S が完全に水に溶けて生じた化合物のモル濃度において, 硫黄に注目した場合, 水に溶けた化合物に含まれる硫黄は必ず硫化水素 H2S からのものである。
したがって, 硫化水素の全量の濃度Cにおいて, C = [H2S] + [HS-] + [S2-] が成立することが分かる。
Cを変形すると,
C = [S2-]×([H2S]/[S2-] + [HS-]/[S2-] + 1) …(iii)
● 式(ア)と(イ)
K1 = {[H+][HS-]}/[H2S] …(ア) K2 = {[H+][S2-]}/[HS-] …(イ)
から
K1K2 ={[H+][HS-]}/[H2S]×{[H+][S2-]}/[HS-]
= [H+]/[H2S]×{[H+][S2-]}
よって,
[H+]2/K1K2 = [H2S]/[S2-] …(iV)
また, (イ)から
[H+]/K2 = [HS-]/[S2-] …(v)
式(iv)と(v)を(iii)へ代入すると
C = [S2-]×([H+]2/K1K2 + [H+]/K2 + 1) = [S2-]×( ウ ) …(3)
● 硫酸銅(II)水溶液に硫化ナトリウム水溶液を加えていくと黒色沈殿が生じる。この場合, 生成した沈殿と溶解しているイオンとの間には次のような平衡が存在する。
CuS(固) ⇄ Cu2+(aq) + S2-(aq)
この平衡定数を K, 各成分のモル濃度を [CuS(固)], [Cu2+], [S2-] とすると, [CuS(固)] は, 固体の量にかかわらず一定であるため,
K×[CuS(固)] = [Cu2+][S2-] = ( エ ) = Ksp …(4)
という関係式が成り立つ。
ここで定数 Ksp は溶解度積とよばれ, 難溶性塩の溶解度を表わす定数である。たとえば, 硫酸銅(II)水溶液に硫化ナトリウム水溶液を混合する場合, 各成分のモル濃度の積[Cu2+][S2-]において, その値が Ksp より大きくなると沈殿が生じることになる。
問2の答
(カ)…1.4×10-21 [mol/L]
(キ)…1.3×10-4 [mol/L]
● 3.0×10-1 mol/L の塩酸溶液中では, 電離度が 1 なので,
HCl(aq) → H+(aq) + Cl-(aq)
よって,
[H+] = 3.0×10-1 [mol/L] …(i)
また,
K1 = 9.6×10-8 [mol/L] …(ii)
K2 = 1.3×10-14 [mol/L] …(iii)
C = 1.0×10-1 [mol/L] …(iv)
ここで, 式(3)
C = [S2-]×([H+]2/K1K2 + [H+]/K2 + 1) …(3)
に (i)~(iv)の値を代入すると, [S2-] は
[S2-] = (1.0×10-1)/[(3.0×10-1)2/{(9.6×10-8)(1.3×10-14)} + (3.0×10-1)/(1.3×10-14) + 1]
= (1.0×10-1)/(0.721×1020 + 2.308×1013 + 1)
= (1.0×10-1)/(0.721×1020) = 1.4×10-21 [mol/L] …(カ)
● pH = 11 の水溶液中では,
[H+] = 10-pH = 10-11 [mol/L]
よって, [S2-] は
[S2-] = (1.0×10-1)/[(10-11)2/{(9.6×10-8)(1.3×10-14)} + (10-11)/(1.3×10-14) + 1]
= (1.0×10-1)/(0.0801×100 + 0.769×103 + 1) = (1.0×10-1)/(770.081)
= 1.3×10-4 [mol/L] …(キ)
問3の答 FeS MnS NiS
● 水素イオンのモル濃度 [H+] において, 3.0×10-1 (mol/L) の塩酸では, 電離度 1 から
[H+] = 3.0×10-1 (mol/L) : 沈殿なし
pH = 11 では
[H+] = 10-11 (mol/L) : 沈殿あり
● 沈殿しない場合のKsp値は, [H+] = 3.0×10-1 (mol/L)において, [M2+] = 1.0×10-2 mol/L と問2の答(カ)の値を次式に代入すると計算できる。
Ksp = [M2+][S2-]
ただし, M2+ は金属イオンを表わす。
よって,
Ksp = [M2+][S2-] = (1.0×10-2)(1.4×10-21)
= 1.4×10-23 [mol2/L2]
沈殿する場合のKsp値は, [H+] = 10-11 (mol/L)において, 同様に問2の答(キ)の値を使用すると,
Ksp = [M2+][S2-] = (1.0×10-2)(1.3×10-4)
= 1.3×10-6 [mol2/L2]
以上のKsp 値の計算から, 金属硫化物が沈殿するためには, Ksp値は 1.4×10-23 [mol2/L2] より大きくなければならない。そこで, 表1中において該当する金属硫化物は
FeS Ksp 5.0×10-18 [mol2/L2] >1.4×10-23 [mol2/L2]
MnS Ksp 2.3×10-13 [mol2/L2] >1.4×10-23 [mol2/L2]
NiS Ksp 2.0×10-21 [mol2/L2] >1.4×10-23 [mol2/L2]