1章A 類題2-1(140331) TOP-A
[問題] 硫化水素による金属イオンの分離に関する次の文章を読んで問1~問3に答えなさい。ただし, 塩酸の電離度は 1 とする。
水溶液中に存在する金属イオンの確認は, 特定の陰イオンとの沈殿生成反応や呈色反応が利用される。しかし, 複数の金属イオンを含む水溶液では,
特定の陰イオンとの反応で同時に複数の金属イオンの沈殿が生成し, 金属イオンの確認を阻害する場合がある。
そこで, あらじめ pH の異なる水溶液に硫化水素を通じることで金属イオンの沈殿生成, 分離を系統的に行ったのち, 各金属イオンの確認が行われている。ここでは硫化水素の有用性を考察してみよう。
硫化水素は水溶液で次に示す二段階の電離平衡を示す。ただし, aq は溶媒の水に溶けていることを意味する。
H2S(aq) ⇄ H+(aq) + HS-(aq) …(1) HS-(aq) ⇄ H+(aq) + S2-(aq) …(2)
式(1), 式(2) の平衡定数をそれぞれ K1, K2 とし, 水溶液中での各成分のモル濃度を [H2S], [H+], [HS-], [S2-] と表わすと,
K1 = ( ア ) K2 = ( イ )
である。今, 水溶液中に含まれる硫化水素の全量の濃度を C (mol/L) とすると,
C = [H2S] + [HS-] + [S2-]
という関係があるので, C は K1, K2, [H+] を用いて, 次のように表わすことができる。
C = [S2-]×( ウ ) …(3)
次に沈殿生成反応について考えてみよう。硫酸銅(II)水溶液に硫化ナトリウム水溶液を加えていくと黒色沈殿が生じる。この場合, 生成した沈殿と溶解しているイオンとの間には次のような平衡が存在する。
CuS(固) ⇄ Cu2+(aq) + S2-(aq)
この平衡定数を K, 各成分のモル濃度を [CuS(固)], [Cu2+], [S2-] とすると, 溶解平衡を考えることができるが, [CuS(固)] は, 固体の量にかかわらず一定であるため,
K×[CuS(固)] = ( エ ) = Ksp …(4)
という関係式が成り立つ。ここで定数 Ksp は溶解度積とよばれ, 難溶性塩の溶解度を表わす定数である。たとえば, 硫酸銅(II)水溶液に硫化ナトリウム水溶液を混合する場合, 各成分のモル濃度を( エ )に代入して得られた値が Ksp より( オ )なると沈殿が生じることになる。式(4)は硫化銅(II)を難溶性金属硫化物に置き換えても同様に成り立つ。
金属イオンの溶解した pH の異なる水溶液に硫化水素を通じた場合, 式(3)と式(4)を合わせて考えることで金属硫化物の沈殿が生成するかどうかを判断できる。式(3)において,
K1 = 9.6×10-8 mol/L K2 = 1.3×10-14 mol/L C = 1.0×10-1 mol/L
とすると, pH が決まれば硫化物イオンの濃度を計算することができる。
3.0×10-1 mol/L の塩酸溶液中での硫化物イオンの濃度は( カ )mol/L, pH = 11 の水溶液中での硫化物イオンの濃度は( キ )mol/L となり, 硫化物イオンの濃度は pH に強く依存していることがわかる。一方, 式(4)において Ksp は定数であるため, 金属硫化物の沈殿生成は硫化物イオンの濃度に依存する。
今, 金属イオンが 1.0×10-2 mol/L の濃度で溶解している pH の異なる水溶液に硫化水素を通じ, C = 1.0×10-1 mol/L となる場合を考える。(ク)表1 から 3.0×10-1 mol/L の塩酸溶液中では沈殿が生じず, pH = 11 の水溶液では沈殿が生じる金属硫化物が存在することがわかる。このように硫化水素は pH に依存して金属イオンを分離することができる有用な試薬であることが理解される。
問1 空欄( ア )~( オ )にあてはまる式あるいは語句を答えなさい。
答
問2 空欄( カ ), ( キ )の数値を有効数字2桁で答えなさい。
答
問3 下線部(ク)に関して, 該当する金属硫化物を表1の中から選び, 化学式ですべて答えなさい。
表1
金属硫化物 CdS Ksp 1.6×10-28 [mol2/L2] 金属硫化物 FeS Ksp 5.0×10-18 [mol2/L2]
金属硫化物 MnS Ksp 2.3×10-13 [mol2/L2] 金属硫化物 NiS Ksp 2.0×10-21 [mol2/L2]
金属硫化物 PbS Ksp 7.1×10-28 [mol2/L2] 金属硫化物 SnS Ksp 1.1×10-27 [mol2/L2]
答