9章 C類題3-2(150518)             TOP-C


[問題] 次の文章を読み, 問1〜8に答えなさい。

(文1) ナイロン 66 (6,6-ナイロン) は, ジカルボン酸 X とジアミン Y の縮合重合によって得られる。実験室でナイロン 66 をつくる場合には, X の代わりに酸塩化物注) Z を使うと加熱や加圧が不溶となり, 以下の操作(i)〜(iii)を行うことで簡単に合成することができる。

(i) ビーカーに溶媒 S1 を入れ, 化合物 Z を溶かす。

(ii) 別のビーカーに溶媒 S2 を入れ, @水酸化ナトリウムと化合物 Y を溶かす。

(iii) (i) で調整した溶液に (ii) で調製した溶液を静かに注ぐと, (ii) の溶液が上層となり, 2つの液の境界面にナイロン 66 の薄膜が生成する。これをピンセットでつまんで引き上げ, 試験管などに巻き付けて, ナイロン 66 の繊維を得る。

 一方, 工業的には X と Y を直接縮合重合してナイロン 66 を合成する。実用のために力学的強度を上げるには, ポリマーの重合度を十分に高くする必要がある。A重合度の高いナイロン 66 を工業的に生産するには, X と Y の物質量の比が重要である。そのため, まず最初に, 物質量の等しい X と Y からなる塩を作る。その後, 270℃程度にまで加熱して, 溶融状態で脱水縮合反応を進行させ, ナイロン 66 を得る。

(文2) 2-アミノプロパン (CH3)2CHNH2 にアクリル酸の酸塩化物注) を加えて反応させるとモノマー M が得られる。さらに M を重合させることでポリマー P2 が得られる。

 P2 はある温度以下では水に溶解し, その溶液は透明である。しかし, ある温度以上に加熱すると水に不溶となり, 透明な溶液は白濁する。この現象は可逆的で, 冷却すると再び透明な溶液に戻る。2-アミノプロパンの代わりにアミノメタン CH3NH2 を用いた場合はこのような性質を示さない。

 低温領域においては, P2 の構造中で親水性の( a )結合部位が水分子と水素結合を形成することで P2 は水に溶解する。一方, 高温領域では水分子が P2 から遊離し不溶となる。P2 中に存在する( b )基の疏水性がこの不溶化に大きく寄与している。
 このように, P2 は温度に応答する ‘賢い’高分子であり, 環境や再生医療の分野などで様々な機能性材料として応用する研究が盛んに行われている。

注) 酸塩化物 : ここでは, カルボン酸の -COOH を -COCl に置換した化合物をさす。


問1 Z の構造式をすべての価標を省略せずに記しなさい。

                              


問2 下線部@について, 水酸化ナトリウムを加える理由として最も適当なものを下記の選択肢より 1つを選びなさい。

 (1) カルボキシ基を中和することで縮合を加速する。

 (2) 縮合速度を抑えることで縮合度の高いポロマーを合成する。

 (3) 縮合速度を抑えることでポリマーの強度を適切に調整する。

 (4) 塩化水素を中和することで縮合速度が低下することを防ぐ。

 (5) 塩酸化物をカルボン酸に加水分解することで縮合を加速する・

 (6) 水酸化ナトリウムの溶解熱を利用して縮合を加速する。

                              


問3 S1 と S2 の組み合わせとして最も適当なものを選びなさい。

 (1) S1 : ジクロロメタン, S2 : 水  (2) S1 : 水, S2 : ジクロロメタン

 (3) S1 : アセトン, S2 : 水  (4) S1 : 水, S2 : アセトン

 (5) S1 : ジエチルエーテル, S2 : 水  (6) S1 : 水, S2 : ジエチルエーテル

 (7) S1 : エタノール, S2 : ジエチルエーテル  (8) S1 : ジエチルエーテル, S2 : エタノール

                              


問4 下線部Aについて, X と Y の物質量が等しくない場合を考える。最初に存在していた X と Y がもつカルボキシ基とアミノ基の総数をそれぞれ NX, NY とする。ここで NX/NY = r (0 < r < 1) とする。カルボキシ基がすべて反応したとき, 反応後の水分子を除いた全分子数を NX と r を用いて表わしなさい。

                              


問5 合成したナイロン 66 の重合度の平均値 (平均重合度) は, (反応前の全分子数)/(反応後の水を除いた全分子数) で計算できる。問4の条件において, 平均重合度を r を用いて表わしなさい。

                              


問6 問4の条件において, カルボキシ基がすべて反応したときの平均重合度を 200 以上にしたい。そのためには, 重合開始時において X の物質量に対する Y の物質量の過剰分を何%以下に抑える必要がありますか。有効数字2桁で求めなさい。

                              


問7 P2 の構造式を記しなさい。なお, ポリマーの構造式は下図の例にならって繰り返し単位を記すこと。

                      (image608)

                              


問8 空欄 ( a ), ( b ) にあてはまる最も適切な語句をそれぞれ記しなさい。