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問1の答    下の図I (image597)
                    (image597)

● ナイロン 66 (6,6-ナイロン) は, ジカルボン酸 X すなわちアジピン酸 HOOC-(CH2)4-COOH とジアンミン Y すなわちヘキサメチレンジアミン H2N-(CH2)6-NH2 の縮合重合で -CO-NH- の結合を形成して得られる。

 そこで, X(アジピン酸)とY(ヘキサメチレンジアミン)がちょうど全て反応したとすると, その反応式は次のようになる。

       nHOOC-(CH2)4-COOH + nH2N-(CH2)6-NH2

                     HO-[-CO-(CH2)4-CO-NH-(CH2)6-NH-]n-H + (2n-1)H2O

 もし, X の代わりに酸塩化物の Z を使用すると

       nClCO-(CH2)4-COCl + nH2N-(CH2)6-NH2

                     Cl-[-CO-(CH2)4-CO-NH-(CH2)6-NH-]n-H + (2n-1)HCl


問2の答

  (4) 塩化水素を中和することで縮合速度が低下することを防ぐ。


● 問1の解説の中の反応式

       nClCO-(CH2)4-COCl + nH2N-(CH2)6-NH2

                     Cl-[-CO-(CH2)4-CO-NH-(CH2)6-NH-]n-H + (2n-1)HCl

 において, 塩化水素 HCl が生成されるので, 水溶液中に水酸化ナトリウム NaOH が存在すると, 次の中和反応

                HCl(aq) + NaOH(aq) → Na+(aq) + Cl-(aq) + H2O

 が生じて, 塩化水素 HCl が反応系からかなり除去されるので, Z と Y の反応が促進される。


問3の答

   (1) S1 : ジクロロメタン, S2 : 水


● 使用する2つの溶液は, 室温で安定・安全な液体で, 二層に分かれ, 上層の液体が生成物のナイロン66となるべくなじまないものがよい。

● 溶液 S1 は化合物 Z(酸塩化物) を溶かし, 溶液 S2 は水酸化ナトリウムと化合物 Y(ジアンミン) を溶かす。

 以上から, S2 は, イオンから成る無機化合物の水酸化ナトリウムを溶かすので, 極性(双極子モーメント対応)の水が適合する。したがって, S1 は, なるべく極性がなくて水と水素結合を作らない有機化合物で, 不燃性で, 密度が 1 より大の液体が適合する。


 水 : mp. 0℃, bp. 100℃, 双極子モーメント 1.94, 密度 1.0 (ナイロン66となじまない, NaOH溶解)

 アセトン : mp. -95℃, bp. 56℃, 双極子モーメント 2.90, 水に易溶, 密度 0.8, 可燃性

 ジエチルエーテル : mp. -116℃, bp. 35℃, 双極子モーメント 1.16, 水に難溶, 密度 0.7, 可燃性

 ジクロロメタン : mp. -97℃, bp. 40℃, 双極子モーメント 1.62, 水に難溶, 密度 1.42, 不燃性

 エタノール : mp. -115℃, bp. 78℃, 双極子モーメント 1.69, 水に無限に溶解(水素結合), 密度 0.8, 可燃性


問4 の答    (NX/2)(1/r - 1)


 (1) ジカルボン酸分子X(アジピン酸): カルボキシ基の総数:NX

 (2) ジアミン分子Y(ヘキサメチレンジアミン): アミノ基の総数:NY

 (3) NX/NY = r (0 < r < 1), すなわち NY > NX (Y が過剰)

 (5) X中のカルボキシ基は完全反応

  X と Y との完全反応式は,

      nHOCO-X'-COOH + nH2N-Y'-NH2 + n'H2N-Y'-NH2

            → H2N-Y'-NH-[-CO-X'-CO-NH-Y'-NH-]n-H + 2nH2O + (n' - 1)H2N-Y'-NH2

 ただし, 上式中の n'H2N-Y'-NH2 はジアミン分子の過剰分, 生成物の高分子の両端はアミノ基であることに注意することが重要である。また, X' はジカルボン酸Xからカルボキシル基を除いた基, Y' はジアミンからアミノ基を除いた基を表わす。実際には, 生成物のナイロン 66 分子式の n は一定でなく, 1, 2, …, ni, … の種々の値をとり分布している。

 以上の(1)~(5)から:

  ジカルボン酸分子X中のカルボキシル基の数は NX, ジアミン分子Y中のアミノ基の数は NY, そして NX/NY = r (0 < r < 1), いわゆる NY > NX で NY が過剰であるので, X を中心にちょうど Y が完全反応する場合において, 次式が成立する。

      (NX/2)X + (rNY/2)Y + (NY/2 - rNY/2)Y

          → NH2-Y'-NH-(-CO-X'-CO-NH-Y'-NH-)NX/2-H + NXH2O + (NY/2 - rNY/2 - 1)Y

 よって, 反応後の水を除いた全分子数は,

          反応後の水を除いた全分子数 = 1 + (NY/2 - rNY/2 - 1) = NY/2 - rNY/2

                              = NX/2r - NX/2 = (NX/2)(1/r - 1)


問5 の答     (1 + r)/(1 - r)


 問4の答から, 反応後の水を除いた全分子数は, (NX/2)(1/r - 1)

 一方, 反応前の全分子数は

            反応前の全分子数 = NX/2 + NY/2 = NX/2 + NX/2r = (NX/2)(1+ 1/r)

 よって,

              平均重合度 = (反応前の全分子数)/(反応後の水を除いた全分子数)

                      = {(NX/2)(1+ 1/r)}/{(NX/2)(1/r - 1)}

                      = (1+ 1/r)/(1/r - 1) = (1 + r)/(1 - r)


問6 の答    1.0 % 以下


                      平均重合度 = (1 + r)/(1 - r)

 よって,

                          200 < (1 + r)/(1 - r)

                          200(1 - r) < 1 + r

                          201r > 199

                          r > 199/201

 重合開始時において X の物質量に対する Y の物質量の過剰分の割合は

            (NY/2 - rNY/2)/(NX/2) = (NX/2r - NX/2)/(NX/2) = 1/r -1

 したがって, 1/r = 201/199 を代入すると,

                   1/r - 1 = 201/199 - 1 = 1.010 - 1 = 0.010

 よって

                           1/r - 1 < 0.010

 過剰分の割合を百分率%で表わすと,

                             1.0 % 以下


問7 の答     上の図II (image597)


 2-アミノプロパン (CH3)2CHNH2 にアクリル酸の酸塩化物 CH2=CHCOCl を加えて反応させるとモノマー M が得られる。反応式で書くと次のようになる:

          (CH3)2CHNH2 + CH2=CHCOCl → CH2=CHCONHCH(CH3)2 + HCl

 生成されたモノマーM の分子CH2=CHCONHCH(CH3)2中に二重結合があるので, 付加重合して次のようにポリマーP2が生成される:

        nCH2=CHCO-NHCH(CH3)2 → -[-CH2-CH(CONHCH(CH3)2)-]n-


問8の答    (a):アミド  (b):イソプロピル


 問7の答の図II(image597)を参照すると, P2の構造にはアミド結合 -CO-NH- があり, ある温度以下の低温領域の水溶液では, -CO-NH- は水と水素結合を形成し親和する。その結果として, 水溶液は透明になる。

 高温領域では, 水素結合が切断され, 同時に構造中の疏水性のイソプロピル基 -CH(CH3)2 が作用して, P2は不溶性となる。その結果として, 水溶液は白濁する。低温になると再び水素結合が生じ, 水溶液は透明になる。