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問1の答 (1), (2)
化学的・物理的性質が同じ物質に, 直線偏光を当てた時, その透過する光(電磁波)の偏光面が回転する場合がある。光の進む方向に向かって, 偏光面が右に回転する右旋光性物質を
D型, 左に回転する左旋光性物質を L型で表わすことが多い。
D型物質とL型物質は, 味や毒性などの生理作用や細菌や酵素などへの作用がかなり異なることがある。天然に存在するグルコースのほとんどは, D型である。
α-D-グルコースを水に溶かすと, 平衡状態は平衡混合物として次図(image146)のようになる。
(image146)
●1 ここで, IVが環状のα-D-グルコース, Vが鎖状のアルデヒド型グルコースおよびVIが環状のβ-D-グルコースを表わす。したがって,
VIのβ-D-グルコースがIVのα-D-グルコースと異なる環状分子である。
●2 そこで, β-D-グルコースのVI図を参照し, 炭素骨格(六員環)の各炭素に結合した水酸基(OH基)の位置に注目し, 炭素原子を, 1→2→3→4の順に移動(右ネジ方向とする)させると,
(a) 炭素1結合のヒドロキシ基(①OH基)の位置は, 六員環をはさんで, 炭素6と同じ側にある。
(b) ②OH基の位置は逆の側, (c) ③OH基は同じ側, (d) ④OH基は逆の側である。
●3 図3-3の(1)~(6)において, ●2の(a)~(d)の条件の全てに適合するものは, (1)と(2)である。
問2の答
[理由] 低速の平衡反応で生じる少量のアルデヒド型グルコースが速度に関与する。
●1 アンモニア性水溶液に硝酸銀を溶かすと, 次のような平衡反応が生じる。
AgNO3(aq) + 2NH3(aq) ⇄ [Ag(NH3)2]+(aq) + NO3-(aq) …(1)
●2 還元性のアルデヒド基(CHO基)を持つ有機化合物(R-CHO)は, 上述のアンモニア性硝酸銀水溶液中の錯イオンジアンミン銀(I)イオン
[Ag(NH3)2]+ を還元して, 次のようにカルボン酸を生成し銀を析出する。これは酸化還元の銀鏡反応である。
R-CHO(aq) + 2AgNO3(aq) + 4NH3(aq) + H2O → RCOOH(aq) + 2NH4NO3(aq) + 2NH3(aq) + 2Ag(s)↓
上式を具体的に電子授受に注目して考察すると次のようになる。
還元性のR-CHOは次のように電子を放出してカルボン酸を生じる。
R-CHO(aq) + H2O → RCOOH(aq) + 2H+(aq) + 2e- …(2)
その放出した電子を, [Ag(NH3)2]+ が次のように吸収して Ag を析出する。
2[Ag(NH3)2]+(aq) + 2H+(aq) + 2e- → 2Ag(s)↓+ 2NH4+(aq) + 2NH3(aq) …(3)
(1) + (2) + (3) によって, 1つの式にまとめると
R-CHO(aq) + 2AgNO3(aq) + 4NH3(aq) + H2O → RCOOH(aq) + 2NH4NO3(aq) + 2NH3(aq) + 2Ag(s)↓
●3 問1の解説の図(image146)を参照すると, 環状のα-D-グルコースは, 第1段階で, 低速度の平衡反応によって少量の鎖状のアルデヒド基(CHO基)を持つアルデヒド型グルコースを生じる。
第1段階 … 環状α-D-グルコース ⇄ 鎖状アルデヒド型グルコース
次に生成された鎖状のグルコースが, 第2段階で, アンモニア性水溶液中のジアンミン銀(I)イオンを還元してカルボン酸を生じ, 銀が析出される。
第2段階 … 鎖状アルデヒド型グルコース + ジアンミン銀(I)イオン ⇄ カルボン酸 + 銀
●4 以上から, アンモニア性硝酸銀水溶液中のジアンミン銀(I)イオンは, α-D-グルコースの反応中心の炭素1に, グルコース環状のため接近しにくいが,
それに対してアルデヒド型グルコースは鎖状で先端にアルデヒド基が存在する。したがって, 構造的障害はあまりない。よって, 主として, ジアンミン銀(I)イオンは,
遅い平衡反応で生じた少量のアルデヒド型グルコースと反応して銀を析出する。
●5 それに対して, 鎖状の脂肪族アルデヒドは, アンモニア性硝酸銀溶液中のジアンミン銀(I)イオンと, 上述の2つの段階を踏まずに, 直接反応して銀が析出される。これは脂肪族アルデヒドの反応速度が速いことを意味する。
問3の答
CO(ONH4)-HC(OH)-(HO)CH-HC(OH)-HC(OH)-CH2-OH (図image146参照すると, V の式中のアルデヒド基 -CHO が, -COONH4 に変化したものである。)
● 問1解説中の図image146と問2解説中の●2を参照して, 鎖状アルデヒド型グルコースは, 酸化されてカルボン酸を生成する。生成されたカルボン酸
RCOOH は, アルカリ性のアンモニア水溶液中にあるので, 中和反応してアンモニウム塩を生成する。
RCOOH(aq) + NH3(aq) ⇄ RCOONH4(aq)
問4の答 (3), (5)
● ①OH基が変化した二糖類が還元作用を示さなくなる。
問5の答
(C30H50O25)n + 2nH2O → (C12H20O10)n + nC12H22O11 + nC6H12O6
● 図3-2中の単量体において, ①OH基と⑥OH基間での2モルのα-グルコシド結合が, 2モルの水分子によってすべて加水分解されるので,
-(C30H50O25)- + 2H2O → -(C12H20O10)- + C12H22O11 + C6H12O6
よって, ポリマー分子P1の分子式 (C30H50O25)n を用いると,
-(C30H50O25)n- + 2nH2O → -(C12H20O10)n- + nC12H22O11 + nC6H12O6
問6の答 析出銀 Ag の重量 : 4.3 g
●1 α-D-グルコースのアルデヒド型分子式を R-CHO とすると, アンモニア性硝酸銀水溶液との反応は, 1mol のα-D-グルコースあたり2mol
の銀が析出する (問6本文と問2解説の●2参照)。
R-CHO(aq) + (アンモニア性硝酸銀水溶液) → 2Ag(s)↓
●2 問5の答の反応式を参照すると, 1モルのP1から, nモルの二糖類(マルト―ス)とnモルの単糖類(グルコース)を生じる。
●3 問1の解説と図3-4を参照すると, 二糖類(マルト―ス)と単糖類(グルコース)は分子内にそれぞれ1個の還元性の起点となる炭素原子C1が存在する。
●4 以上の●1~●3から, 1モルのP1は, 酵素の作用で加水分解して, 2nモルの還元性の起点となる炭素原子C1が生じ, それにアンモニア性硝酸銀水溶液を加えると,
銀Agの析出する物質量は
銀Agの析出する物質量 = (2n)×2 = 4n モル
そこで, 8.1g のポリマー分子P1 (分子量 810n) が加水分解すると, 生じる銀の物質量は,
生じる銀の物質量 = {8.1/(810n)}×4n = 0.04 モル
よって, 析出銀 Ag の質量g (または重量g) は, 原子量が 107.9 であるので,
析出銀 Ag の重量 = (107.9 g/モル)×0.04 モル = 4.3 g (有効数字2桁)
問7の答 異性体の数 : 5
図3-1と図3-5を参照し, 条件1~3を考慮すると, まず, 下図3-6のように 2つの五糖の構造式を書くことができる。
●1 図中の (I)は, A-B-Cにおいて, AがBに炭素原子1A4B結合, BがCに炭素原子6B1C結合したものに, Cが残りの2個のDとE に結合する。
すなわち, Cが残りの内の 1つのDに炭素原子4C1D結合, もう1つのEに炭素原子6C1E結合したものを表わしている。以上を簡潔にまとめると次のようになる。
AB(1A4B)・BC(6B1C)・CD(4C1D)・CE(6C1E)
よって, ●1の場合では, 異性体は1つである。
●2 図中の (II)は, A-B-Cにおいて, AがBに炭素原子1A4B結合, BがCに炭素原子6B1C結合, CがDに炭素原子6C1D結合し, さらに, Dが残りの1個のEに4D1E結合したものを表わす。簡潔にまとめると
AB(1A4B)・BC(6B1C)・CD(6C1D)・DE(4D1E)
上の分子構造はポリマー分子を構成する単量体の構造と同じである。
(II)の構造を基本にして, 同じように考えると, さらに次の3つがあげられる。
AB(1A4B)・BC(6B1C)・CD(6C1D)・DE(6D1E)
AB(1A4B)・BC(6B1C)・CD(4C1D)・DE(4D1E)
AB(1A4B)・BC(6B1C)・CD(4C1D)・DE(6D1E)
以上の●1と●2を合わせると, 五糖の異性体の数は 5 となる。
(image595)