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問1の答    a : (3)  b : (4)


● アルカリ金属はイオン傾向が大きく, 常温で激しく水と反応する。一方, 銅や銀はイオン傾向が小さいため, 水と反応しないが, 酸化力の大きい硝酸を用いると反応する。また, アルカリ金属 M はハロゲン X2 と反応し, ハロゲン化物 MX を生成する。

● イオン化傾向…元素に外部からエネルギーを与えるとその元素の気化した原子は電子を放出しイオン化する。そのとき, 低いエネルギーでイオン化すると, その元素はイオン化傾向が大きいという。例えば, アルカリ金属のナトリウム Na = 5.4 eV (1 eV は, 1.60×10-19 J), 貴金属の銀 Ag = 7.6 eV.

● 酸化と還元…1つの化学反応において, 酸化と還元は同時に起る。電子の授受に注目すると, 物質Aが相手の物質Bから電子を受け取るとき, 物質Aは相手の物質Bを酸化するという。これは, 酸化数に注目すると, 物質A内の元素の酸化数の増加を意味する。他方, 物質Bは物質Aを還元する。

 逆に, 物質Aが相手の物質Bへ電子を授けるとき, 物質Aは相手の物質Bを還元するという。これは, 物質A内の元素の酸化数の減少を意味する。他方, 物質Bは物質Aを酸化する。


問2の答    3Cu + 8HNO3 → 3Cu(NO3)2 + 2NO + 4H2O


● 酸化力の大きい希硝酸 HNO3 は相手の銅 Cu から電子を受け取り, 一酸化窒素 NO を発生し溶ける。反応式で説明すると,

                          Cu → Cu2+ + 2e- …(i)

                      NO3- + 4H+ + 3e- → NO + 2H2O …(ii)

 (i)と(ii)の電子に注目し, (i)×3 + (ii)×2 で電子を消去して, 1つの式にまとめると,

                        3Cu → 3Cu2+ + 6e- …(i)×3

                      NO3- + 8H+ + 6e- → 2NO + 4H2O …(ii)×2

 よって,

                 3Cu + NO3- + 8H+ + 6e- → 3Cu2+ + 6e- + 2NO + 4H2O

                      3Cu + NO3- + 8H+ → 3Cu2+ + 2NO + 4H2O

                      3Cu + 8HNO3 → 3Cu(NO3)2 + 2NO + 4H2O


問3の答  c : (2)   d : (1)


●1 MX の溶解度は, その溶解熱 Q (式(1)を参照) が大きいほど大きい。

                       MX の溶解度 ∝ MX の溶解熱 Q

●2 MX の溶解過程は, 反応熱に注目して, MX のイオン化と水和に分けて考えることができる。

     MX(固) → イオン化, 負のQイオン化(式(2)(3)参照) → イオンへの水和, 正のQ水和(式(4),(5),(6)参照)

●3 MX の溶解熱 Q は, ヘスの法則から, Qイオン化 と Q水和 (Qイオン化 + Q水和) において次の関係が存在する。

                           Q = Qイオン化 + Q水和

 ここで, MX の溶解熱 Q すなわち溶解度が大きくなるためには, (Qイオン化 + Q水和) の値が大きくなればよい。そこで, Qイオン化が負であり(式(3)参照), Q水和が正である(式(6)参照)ことを考慮すると, Qイオン化の絶対値と Q水和の差が大きいほど, MX の溶解度は高くなる。

● ヘスの法則 … 物質が種々の過程で反応するとき, 各過程で生じる反応熱の総和は, 反応過程に依存せず, 最初の反応物のエネルギーレベルと最終の生成物のエネルギーレベルの差で決まる。


問4の答    e :(1/6)(α/rM)   f : β/rM


● アルカリ金属のハロゲン化物, 塩 A, B の化学式を次のようにする。

                         A … MX1    B … MX2

 ここで, M, X1 および X2 のイオン半径は

                         M のイオン半径 = rM  

                         X1 のイオン半径 = rX1 = rM

                         X2 のイオン半径 = rX2 = 0.5rM

● 式(3)から, A (MX1) の QAイオン化

                      QAイオン化 = -α/(rM + rX1) = -α/(2rM)

 B (MX2) の QBイオン化

                      QBイオン化 = -α/(rM + rX2) = -α/(1.5rM)

 ただし, αは正の定数である。

● B の QBイオン化から A の QAイオン化を差し引くと

                    QBイオン化 - QAイオン化 = -α/(2rM) - {-α/(1.5rM)}

                    = α/(1.5rM) - α/(2rM) = α(1/1.5rM - 1/2rM)

                    = α(2/3rM - 1.5/3rM) = (α/3rM)(2 - 1.5)

                            = (0.5/3)(α/rM) = (1/6)(α/rM)

● 式(6)から, A (MX1) の QA水和

                    QA水和 = QM + QX1 = β(1/rM + 1/rX1) = β(1/rM + 1/rM)

                    = 2β/rM

 B (MX2) の QB水和

                    QB水和 = QM + QX2 = β(1/rM + 1/rX2) = β(1/rM + 1/0.5rM)

                    = β(0.5/0.5rM + 1/0.5rM) = (1.5/0.5)(β/rM)

                    = 3β/rM

 ただし, βは正の定数である。

● B の Q水和から A の Q水和を差し引くと

                    QB水和 - QA水和 = 3β/rM - 2β/rM = β/rM


問5の答    α =2.2×102 kJ・nm・mol-1   β = 56 kJ・nm・mol-1


● NaF のイオン化熱 QNaF は, 式(3)から

                         Qイオン化 = -α/(rNa + rF)

 QNaF= -923 kJ・mol-1, rNa = 0.12 nm および rF = 0.12 nm の各値を上式に代入すると,

                    -923 kJ・mol-1 = -α/(0.12 nm + 0.12 nm)

 よって,

                        α = 923×0.24 kJ・nm・mol-1

                          = 2.2×102 kJ・nm・mol-1

● Na+ イオン と F- イオンの水和熱 (QNa + QF) は, 式(6)から,

                       Q水和 = QNa + QF = β(1/rNa + 1/rF)

 QNa = 406 kJ・mol-1, QF = 524 kJ・mol-1, rNa = 0.12 nm および rF = 0.12 nm の各値を上式に代入すると,

                  406 kJ・mol-1 + 524 kJ・mol-1 = β(1/0.12 + 1/0.12) nm-1

                         930 kJ・mol-1 = (2/0.12)β nm-1

 よって,

                         β = 55.8 kJ・nm・mol-1

                           = 56 kJ・nm・mol-1


問6の答

 塩A の溶解熱 QA は QA = 2/rM  塩B の溶解熱 QB は QB = 21/rM

 以上から, QB > QA であるので, 塩B の方が溶解度が高い。

 [理由] 絶対値のイオン化熱と水和熱の差が大きいほど溶解度は高くなる。その差はBは大きく溶解度が高くなる。


● 塩A の溶解熱 QA は次式で表わされる (問3と4の解説参照)。

                   QA = QAイオン化 + QA水和 = -α/(2rM) + 2β/rM

                      = (-2.2×102)/(2rM) + 2(56)/rM

                      = -110/rM + 112/rM = 2/rM

 一方, 塩B の溶解熱 QB は次式で表わされる (問3と4の解説参照)。

                   QB = QBイオン化 + QB水和 = -α/(1.5rM) + 3β/rM

                      = (-2.2×102)/(1.5rM) + 3(56)/rM

                      = -146.7/rM + 168/rM

                      = 21/rM

 以上の結果から, 溶解熱 QA と QB を比較すると, QB > QA であるので, 塩B の方が溶解度が高い。

●  イオン化熱でBとAの差は

                          (1/6)(α/rM) = 37/rM

 一方, 水和熱でBとAの差は

                          β/rM = 56/rM

 したがって, Bがイオン化熱と水和熱でAより37/rMおよび56/rMだけ大きい。また, Bでは, 水和熱の方がイオン化熱よりも19/rMだけ大きく, 溶解熱への影響が大である。

● 以上から, Bは絶対値のイオン化熱と水和熱の差がかなり大きいので溶解熱が大きくなる。したがって, 溶解度が高くなる。これに対して, Aは水和熱がわずかに大きいく, 絶対値のイオン化熱とほとんど差がない。したがって, Aの溶解熱は小さくゼロに近いので, 溶解度は小さくなる。


問7の答   溶解度が最も高い塩…LiI  溶解度が最も低い塩…LiF


● ハロゲン化リチウム塩の場合は, 陰イオンの半径が小さくなるほど絶対値のイオン化熱も水和熱も大きくなるがその差は小さくなって溶解熱も小さくなり, 溶解度は低くなる。

● MX(固) の溶解熱を Q とすると,

                           Q = Qイオン化 + Q水和

 問題本文中の式(3)と(6)を用いると,

                 Q = Qイオン化 + Q水和 = -α/(rM + rX) + β(1/rM + 1/rX)

 LiXにおいて, 問5の解答を参照して, いまαを 220 kJ・nm・mol-1, βを 56 kJ・nm・mol-1 とすると,

                 QLiX = -220/(0.09 + rX) + 56(1/0.09 + 1/rX)

                    = 56/rX - 220/(0.09 + rX) + 622

 上式を用いて, 各リチウム塩の溶解熱を計算すると,

                   QLiF = 56/0.12 - 220/(0.09 + 0.12) + 660

                      = 467 - 1048 + 660

                      = 79 kJ・nm・mol-1

                   QLiCl = 56/0.17 - 220/(0.09 + 0.17) + 660

                      = 329 - 846 + 660

                      = 143 kJ・nm・mol-1

                   QLiBr = 56/0.18 - 220/(0.09 + 0.18) + 660

                      = 311 - 815 + 660

                      = 156 kJ・nm・mol-1

                   QLiI = 56/0.21 - 220/(0.09 + 0.21) + 660

                      = 267 - 733 + 660

                      = 194 kJ・nm・mol-1
 よって,

                        QLiF < QLiCl < QLiBr < QLiI