答 元の問題へ
問1の答 Na+の半径 = 0.115 [nm]
● 図2-1(b) において, その対角線1-7 を L17 とすると, L17 は, 辺 L15, L58, L87 を用いると, ピタゴラスの定理から, 次の式で表される :
L17 = {L152 + (L582 + L872)}1/2
ここで, CsCl の単位格子は立方体であるから
L15 = L58 = L87 = 0.402 [nm]
よって
L17 = {L152 + (L582 + L872)}1/2 = (3L152)1/2 = (3)1/2L15
= 1.73×0.402 = 0.69546 [nm] …(1)
また, 対角線1-7(L17) 上で 1個のCs+イオンに 2個のCl-イオンが接している。そこで, Cs+イオンのイオン半径を rCS+, Cl- のイオン半径を rCl- とすると, 次式が成立する :
L17 = 2(rCS+ + rCl-)
Cs+の半径は rCS+ = 0.181nm であるので
L17 = 2(rCS+ + rCl-) = 2(0.181 + rCl-) = 0.362 + 2rCl- …(2)
(1)と(2)から
0.69546 = 0.362 + 2rCl-
2rCl- = 0.33346
よって
rCl- = 0.167 [nm] …(3)
● 一方, 図2-1(a)において, 辺1-5 を L15, Na+ のイオン半径を rNa+ とすると, 次式が成立する :
L15 = 2(rCl- + rNa+) = 0.564 [nm]
よって
rCl- + rNa+ = 0.282 [nm] …(4)
(3)を(4)に代入すると
0.167 + rNa+ = 0.282
よって
rNa+ = 0.115 [nm]
問2の答 Na+ の半径の方が小さい。
[計算式]
金属 Na の体心立方格子において, 格子の一辺を L, Na原子の半径を r とすると,
L = 4(3)-1/2r
そこで, 格子の質量 W, 密度を d とすると
W = dL3 = 43(3)-3/2dr3
よって, Na原子の半径 r は
r = [W/{43(3)-3/2d}]1/3
W = 7.64×10-23g および d = 1.00×10-27g/nm3 を上式に代入すると
r ≒ 1.84 [nm]
問1の答 rNa+ = 0.115 {nm} を参照すると
Naの原子半径(1.84nm) > Na+のイオン半径(0.115nm)
● 金属 Na の体心立方格子において, 格子の一辺を L [nm] とすると, 図2-1(b)を参照して, 対角線1-7(L17) 上で, 中心のNa原子に2個のNa原子が接している。そこで, Na原子の半径を r とすると, 次式が成立する :
L17 = {L152 + (L582 + L872)}1/2 = (3L2)1/2 = (3)1/2L
L17 = 4r
よって
L = 4(3)-1/2r [nm] …(1)
● 体心立方格子の体積 L3 [nm] 中の Na 原子数は, 図2-1(b)を参照して,
格子の角(かど)のNa原子数…1/8 個
格子の全ての角(かど)のNa原子数…(1/8)×8 = 1 個
格子の中心のNa原子数…1 個
よって
格子の体積 L3 [nm3] 内のNa の全原子数は…2 個
Na原子2個の質量w [g] は, 原子量23.0を使用して,
w = (23.0/6.02×1023)×2 = 7.64×10-23 [g] …(2)
一方, 格子の体積 L3 [nm3] の質量は, 密度 1.00g/cm3 = 1.00g/(109nm)3 = 1.00×10-27g/nm3 と (1) を使用すると,
{4(3)-1/2r}3×(1.00×10-27) = 12.4r3×10-27 [g] …(3)
よって, (2) = (3) から
12.36r3×10-27 = 7.64×10-23
r3 = 0.6181×104 = 6.181×103
よって
r = (6.181)1/3×10 ≒ 1.84 [nm]
問1の答 rNa+ = 0.115 {nm} を参照すると
Naの原子半径(1.84nm) > Na+のイオン半径(0.115nm)
問3の答
原子半径を決める最外殻電子はNaではM殻にNa+ではより内側のL殻に存在する。
原子番号11の基底状態のNaの電子配置は
Na : 1s22s22p63s1
Na+の電子配置は
Na+ : 1s22s22p6
NaとNa+の電子配置を比較すると, 原子半径を決める最外殻電子は, Naでは最外殻のM殻に s電子が 1個, Na+ではL殻に s電子 2個と p電子が 6個存在する。したがって, 最外殻電子がより外側に存在するNa原子の半径はNa+より大きいことになる。
問4の答 655 kJ/mol
[計算の過程]
図2-2から, 各状態での熱化学方程式は
CsCl(固体) = Cs(固体) + 1/2Cl2(気体) - Q1 …(1)
Cs(固体) + 1/2Cl2(気体) = Cs(気体) + 1/2Cl2(気体) - Q2 …(2)
Cs(気体) + 1/2Cl2(気体) = Cs(気体) + Cl(気体) - Q3 …(3)
Cs(気体) + Cl(気体) = Cs+(気体) + Cl(気体) + e- - Q4 …(4)
Cs+(気体) + Cl(気体) + e- = Cs+(気体) + Cl-(気体) + Q5 …(5)
Cs+(気体) + Cl-(気体) = CsCl(固体) + Q6
よって
UB = Q6 = (Q1 + Q2 + Q3 + Q4) - Q5
ここで, Q1〜Q5に与えられている各値を上式に代入すると
UB = (433 + 79 + 121 + 376) - 354 = 655 kJ/mol
● 図2-2から, 各状態での熱化学方程式(標準生成熱Q>0を含む。標準生成エンタルピーΔHΘf の絶対値に相当)を考慮すると,
CsCl(固体) = Cs(固体) + 1/2Cl2(気体) - Q1 …(1)
Cs(固体) + 1/2Cl2(気体) = Cs(気体) + 1/2Cl2(気体) - Q2 …(2)
Cs(気体) + 1/2Cl2(気体) = Cs(気体) + Cl(気体) - Q3 …(3)
Cs(気体) + Cl(気体) = Cs+(気体) + Cl(気体) + e- - Q4 …(4)
Cs+(気体) + Cl(気体) + e- = Cs+(気体) + Cl-(気体) + Q5 …(5)
Cs+(気体) + Cl-(気体) = CsCl(固体) + Q6 …(6)
ここで, (1)+(2)+(3)+(4)+(5)+(6) を考慮すると,
UB = Q6 = (Q1 + Q2 + Q3 + Q4) - Q5 ・・・(7)
また,
Q1 = 433 kJ/mol … CsCl(固体)の生成熱
Q2 = 79 kJ/mol … Cs(固体)の昇華熱
Q3 = (242/2) kJ/mol … 242kJ/mol は Cl2(気体)の結合エネルギー
Q4 = 376 kJ/mol … Cs(気体)の第一イオン化エネルギー
Q5 = 354 kJ/mol … Cl(気体)の電子親和力
よって, イオン結晶 CsCl の格子エネルギーUB は, 上述のQ1〜Q5値を(7)に代入すると
UB = (433 + 79 + 121 + 376) - 354 = 655 kJ/mol
問5の答
AgはClの結合でNaの第一イオン化エネルギーとの差からイオン性以外に共有性を生じることによる。
● 原子番号47のAgの電子配置は基底状態で次のようになる。
Ag : 1s22S22p63s23p63d104s24p64d105s1 …(1)
また, これらの電子軌道のエネルギーレベルは次のようになる。
1s<2s<2p<3s<3p<4s<3d<4p<5s<4d …(2)
外部からエネルギーを気体のAgに与えると, 電子がAg から放出されるが, 上述の(1)と(2)を考慮して, 最初に放出される電子は最外殻の5sの電子ではなく内殻の4dの電子である。
そこでは, 内殻の電子が外部へ放出されるとき, その放出が残っている内殻や最外殻の電子によって妨害されるために第一イオン化エネルギーが大きくなる。
このことは, UBが大きくなることと同等である。言い換えるならば, AgがClと結合するとき, その結合は, ほぼ完全なイオン結合に近いNaClやCsClの結晶に比べて,
イオン性以外に共有性を含むことになる。