答                                 元の問題へ


問1の答   PS-X溶液


(1)
 一般に, 異種の物質の混合系が不均一な濃度分布をもつ場合, その系は時間に対して一様な濃度分布になろうとする。このような一様な濃度分布に近づこうとする現象を「拡散」または「分子拡散」と呼ぶ。
 身近な実例のひとつとして, 多量の水の中に1滴の赤インクを静かに入れると, しだいに薄赤い水溶液になる現象である。この現象は, ミクロ的考察から, 物質を構成する粒子(主として分子)の熱運動によるもので, 主として, 熱力学においてエントロピー増加を意味する。

(2) 特に, 物質が膜を通り抜けて拡散する現象を「浸透」と呼ぶ。この浸透現象は, 問題の本文に記述されているように, 半透膜を使用したトルエンとPS-Xのトルエン溶液の実験がそれに相当する。
 図1のように, 溶媒(トルエンに相当)と溶液(PS-Xトルエン溶液に相当)を半透膜(溶媒が自由に移動)で仕切ると, 溶媒は膜を透過して溶液側に移動し, 溶液面を上昇させ, 一定のところでとまる。
 このとき, 溶液を希薄溶液とし, 溶媒液面と溶液液面との差の高さに比例する圧力Π(Pa)が半透膜にかかり, 溶媒の溶液への浸透をおさえる。この圧力Π(Pa)を浸透圧と呼ぶ。

(3) いま, (2)において, 希薄溶液の溶質分子の形は溶媒中でも変化しないでそのままの形を保持し, 溶質の物質量を n(mol), 溶液の体積を V(L), 温度を T(K), 溶液のモル濃度を c(mol/L)とすると

  ΠV = nRT または Π= cRT …(i)

 ここで, Rは気体定数をあらわす。


問2の答

 合成高分子 PS-X のモル質量に相当する分子量は非常に大きい。故にスチレンと重量濃度が同じでも, 分子数に対応するモル濃度c(重量濃度/分子量)は非常に小さくなり, それに比例関係にある浸透圧Π(cRT)ははるかに小さくなる。


 トルエン溶液中のPS-X はかなりの数のスチレン分子が付加重合して 1つの大きな分子を形成している。しかもトルエン溶液中では一部はその 2分子が会合しているので, 平衡状態の平均分子量はスチレンと比較して非常に大きい。
 このことは, スチレンと重量濃度が同じでも, 分子数に対応するモル濃度c(重量濃度/分子量)は非常に小さくなり, それに比例関係にある浸透圧Π(cRT)ははるかに小さくなる。逆に, スチレン溶液ではスチレンの分子数が非常に多くなり, そのモル濃度が大きくなるので, 浸透圧は PS-Xトルエン溶液と比較して非常に大きくなる。


問3の答  1.2×10-4 [mol]

 V [L] 溶液中で会合体 (PS-X)2 が Mモル形成されたとすると, 平衡で全溶質の物質量は
  (1 - 2M) + M = 1 - M [mol].
 浸透圧の一般式 ΠV = nRT を使用すると, 次式(a)が求まる。
  V = 2075(1 - M) …(a).
 平衡定数 K = 0.25 L/mol から,
  K = (M/V)/{(1 - 2M)/V}2 = 0.25.
 よって,
  4M2 - 4(1 + V)M + 1 = 0 …(b).
 (a)式を(b)式に代入すると,
  8304M2 - 8304M + 1 = 0 …(c)
 2次方程式(c)の根を, PS-X の物質量 = 1 - 2M > 0 を考慮して, 求めると,
  M = 1.2×10-4


 V [L] のトルエン溶液中において, 会合前の PS-X 1モルに対して会合体 (PS-X)2 が Mモル形成されているとすると, 平衡での PS-X の物質量は, 問題本文中の(1)式 2PS-X ⇄ (PS-X)2 を考慮して, 次式が成立する。

  PS-X の物質量 = 1 - 2M

 したがって, 溶液中で平衡で存在している全溶質, PS-X および (PS-X)2 の物質量は

  全溶質の物質量 = (1 - 2M) + M = 1 - M [mol]

 したがって, 浸透圧の一般式 ΠV = nRT を使用して

  (1.2×103)V = (1 - M)(8.3×103)(273 + 27)
  1.2V = 8.3×300(1 - M)

 よって

  V = 2075(1 - M)

 一方, 2PS-X ⇄ (PS-X)2 において, 27℃における平衡での PS-X と (PS-X)2 のモル濃度は

  [PS-X] = (1 - 2M)/V

 および

  [(PS-X)2] = M/V

 よって, 平衡定数 K = 0.25 L/mol を用いると, 単位 L/mol に注意して,

  K = [(PS-X)2]/[PS-X]2 = (M/V)/{(1 - 2M)/V}2 = 0.25

 よって

  MV/(1 - 2M)2 = 1/4
  4MV = (1 - 2M)2
  4M2 - 4(1 + V)M + 1 = 0

 上式に V = 2075(1 -M) を代入すると

  4M2 - 4{1 + 2075(1 -M)}M + 1 = 0
  8304M2 - 8304M + 1 = 0

 2次方程式の根の公式を用いると

  M = {8304 ± (83042 - 33216)1/2}/(2×8304)
    = 0.5 ± (83042 - 33216)1/2/(16608)
    = 0.5 ± 8302/16608
    = 0.5 ± 0.499880

 PS-X の物質量 = 1 - 2M > 0 から,

  M < 0.5

 よって

  M = 0.00012 = 1.2×10-4 [mol]


問4の答   2.1×104


 浸透圧測定実験において, 10g の PS-X をトルエンに溶解し, 1L の溶液とした。ここで, PS-X の分子量を MW とすると, 10g の PS-X の物質量は

  10/MW  [mol/L)

 一方, 問3の解説から, PS-X のモル濃度は, M = 1.2×10-4 ≪1を考慮して

  (1 - 2M)/V = (1 - 2M)/{2075(1 -M)} ≒ 1/2075

 よって

  10/MW = 1/2075
  MW = 20750

 よって

  MW = 2.1×104