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問1の答 反応1(3), 反応2(4), 反応3(9), 反応5(8), 反応6(7)
●[反応1]…有機化合物のフェニル基の2, 5 の位置に置換基(官能基)が結合する反応。[反応2]…アミノ基とカルボキシル基との脱水によるアセチル化反応。無水酢酸の使用でアセチル化できる。[反応3]…アルコールのヒドロキシル基と酸のカルボキシル基とのエステル化反応。[反応5]…反応4での生成物の芳香族環基の2,
5 の置換基X1が置換基X2と入れかわる反応。[反応6]…反応5での生成物の芳香族環基の2, 5 の置換基X2が置換基X3と入れかわる反応。
[反応1]において, L-チロシンは, 芳香族化合物フェノールに相当し, そのベンゼン環に2個の置換基X1がオルトの位置へ配置され, 化合物Aを生成する。
下記の[置換反応]を参照すると, 芳香族化合物に対する反応試薬は, カチオノイド(電子吸引性の化学種)であると想定される。
そこで, (3)の濃硝酸と濃硫酸の混酸では, カチオノイドのニトリルイオン NO2+ が形成され, そのカチオノイド NO2+ が, L-チロシンにある孤立電子対を持つ芳香族環基中の水素と置換する, いわゆる, カチオノイド反応が生じる。
2HNO3 + H2SO4 ⇄ 2HSO4- + H3O+ + NO2+
HRH(L-チロシン) + 2NO2+ → O2NRNO2(化合物A) + 2H+
[反応2]において, 水溶液中でアミノ酸(化合物A)は, (4)の水酸化ナトリウムと無水酢酸を使用すると, 次のように反応してアセチル化される。
R'-CH(COOH)NH2(化合物A) + (CH3CO)2O + NaOH → R'-CH(COOH)NHOCCH3(化合物B)
+ CH3COONa + H2O
ここで, (14)の濃塩酸と無水酢酸の使用も考えられるが, その実験事実はない。
[反応3]において, カルボン酸(化合物B)は, (9)のエタノールと塩化水素を使用すると, 塩化水素は触媒として作用し, 次のように反応してエステル化される。
R'-CH(NHOCCH3)COOH(化合物B) + C2H5OH → R'-CH(NHOCCH3)COOC2H5(化合物C) + H2O
[反応5]と[反応6]において, まず, [問題]本文中の「反応7で, 官能基 X3 はヨウ素に置換され, 化合物 G が生成し, 同時に窒素ガスが発生する。」を考慮すると, 化合物F(反応6での生成物)中の置換基X3は窒素原子を含む必要がある。したがって, [反応6]で置換基X3を形成するために使用する試薬も窒素原子を含む必要がある。
試薬として窒素を含むものは, (3)と(7)があるが, (3)はすでに反応1で使用しており, また反応7で窒素ガスは生じない。そこで, 化合物E(反応5での生成物)は, (7)の亜硝酸ナトリウムと濃硫酸を使用すると, 次のように, 化合物中の X2 が X3=N2SO3ONa に置き換わって, ジアゾ化(2価のアゾ基-N2-を含むこと)され, 化合物F(反応6での生成物)を生じる。
X2R''X2(化合物E) + 2NaNO2 + 2H2SO4 → NaOSO3N2R''N2SO3ONa(化合物F) + 2H2O
ここで, 化合物Fでアゾ基(-N=N-)を含むので, 化合物DのX2にも窒素原子を含む置換基であることが必要であるが, すでに反応1で X2 はニトロ基 NO2 として窒素を含んでいる。
そこで, [反応5]で, (8)の水素と触媒を使用すると, 化合物D(反応4での生成物)は, その中の X1=NO2(すでに反応1で決められているニトロ基)が還元されて, 酸と反応しやすい X2=NH2(アミノ基, 塩基性)になり, 化合物E(反応5での生成物)を生じる。
O2NR'''NO2(化合物D) + 6H2 → H2NR''NH2(化合物E) + 4H2O
そこで, 酸と反応しやすい化合物Eは, 硫酸と反応する。
H2NR''NH2(化合物E) + 2H2SO4 → HOSO3H3NR''NH3SO3OH
生成された化合物 HOSO3H3NR''NH3SO3OH は亜硝酸と反応し, ジアゾ化される。
HOSO3H3NR''NH3SO3OH + 2NaNO2 → NaOSO3N2R''N2SO3ONa(化合物F) + 4H2O
[反応7]において, 官能基 X3=N2SO3ONa はヨウ素に置換され, 化合物 G が生成し, 同時に窒素ガスが発生する。
NaOSO3N2R''N2SO3ONa(化合物F) + I2 → IR''I(化合物G) + 2N2 + NaOSO3-SO3ONa
[置換反応] 一般に, ある化合物の分子中に含まれる原子または原子団を他の原子または原子団に置き換える反応を意味する。有機化学では, 脂肪族化合物のアニオノイド反応と芳香族化合物のカチオノイド反応がよく知られている。アニオノイド反応は求核置換反応(SN型反応), カチオノイド反応は核置換反応(SE型反応)とも呼ばれている。
○主として, 脂肪族化合物のアニオノイド反応では, 反応試薬が, アニオノイド(電子放出性)で, 置換を受ける化合物(被置換化合物)の Cδ+ の炭素原子に結合していく場合である。SN型は進行状態により, SN1型反応と SN2型反応に分けられる。
SN1型反応では, 被置換化合物は, イオン的ではカルボニウムイオンと考えられ, これに アニオノイドのひとつである OH- イオンが接近するとき, OH- イオンは, 平面を形成するカルボニウムイオンの被置換化合物において, その平面の左右のどちら側からでも急接近して付加する。
したがって, SN1型反応で, もし, 原系化合物としての被置換化合物が, 光学的活性体(旋光性を有する)を有するとき, その生成系化合物はラセミ化(旋光性の減少と消失を意味する)する。
SN2型反応(試薬と被置換化合物の2分子反応)では, 原系化合物と生成系化合物は, 置換が逆になり, 生成系化合物は原系化合物の対称体となる。すなわちワルデン反転が生じる。したがって,
原系化合物が光学的活性を有する場合は, 生成系化合物の旋光は, 原系化合物の逆になる。
SN1型反応の例(非光学的活性)として,
(CH3)3CI + OH- → (CH3)3COH + I-
ここで, (CH3)3CI のヨウ素隣接の炭素において, その炭素原子周囲の電子密度は大きい。
SN2型反応の例(非光学的活性)として,
CH3I + C2H5O- → CH3OC2H5 + I-
○一方, 主として, 芳香族化合物のカチオノイド反応では, 反応試薬がカチオノイド(電子吸引性)で, 置換を受ける化合物のCδ- の炭素原子に結合していく場合である。
例として,
混酸によるニトロ化,
鉄触媒によるハロゲン化,
フリーデル-クラフト反応いわゆる無水塩化アルミニウムの存在下で芳香族化合物やオレフィンなどがハロゲン 化アルキルやハロゲン化アシルなどと反応しアルキル化またはアシル化されるカチオノイド置換反応,
エチレン列炭化水素への臭素のイオン的付加
などが上げられる。
試薬の相手の被置換化合物は, 電子を与えやすい不飽和結合を持つ化合物や, 孤立電子対を持つフェノール, アミンなどである。
具体的例として, ベンゼンのニトロ化反応がある。これはニトロニウムカチオンによるカチオノイド置換である。
C6H6 + NO2+ → C6H5(NO2+)(H) → C6H5+(NO2)(H) → C6H5NO2 + H+
また, 一般的には芳香化合物では, カチオノイド置換反応が起きるが, 次のように, フェニル基にニトロ基のような電子吸引性の基を多く持つベンゼン化合物はアニオノイド置換を生じる。
1,4-O2NC6H3NO2(Cl)-2 + C2H5O- → 1,4-O2NC6H3NO2(OC2H5)-2 + Cl-
○さらに, ラジカル反応による置換反応がある。それは SO型反応として示される。たとえば, 置換ベンゼンのフェニル化がある。この場合, 既存置換基からのオルトパラ配向性などはほとんど見られない。
C6H5NO2 + 2C6H5・ → 1,2-O2NC6H4C6H5 + C6H6
問2の答 (2)
化合物 C と化合物 D は, 次の各性質を持つ。
(i) どちらも有機化合物で, 極性をほとんど持たない。したがって, 無極性の有機溶媒には溶けるが, 極性の水には溶けない。
(ii) 化合物 C の分子は, その中に弱酸性を示すフェノールのヒドロキシル基-OHが存在するが, 化合物 D には存在しない。したがって,
化合物 C は弱酸性である。化合物 D は中性である。
化合物 C と化合物 D の混合物に水酸化ナトリウム水溶液を加えた場合, 上述の(ii)を考慮すると, 化合物 C(示性式をROHとする)
は次のように強塩基のNaOH と反応する。
ROH + NaOH → RONa + H2O
生成した RONa は, 極性を有するので, 上述の(i)を考慮して, 水に溶ける。
一方, 化合物 D は, (i)と(ii)を考慮すると, 元のままで, クロロホルムなどの有機溶媒に溶ける。以上から, 未反応の化合物 C
を除き化合物 D を得る目的での抽出操作方法は, (2)が適していることになる。
問3の答 9.4×102 [g]
5.43kg の L-チロシンの物質量 M1 [mol] は, 分子量 181 を使用して,
M1 = (5.43×103)/181 = 30 [mol]
そこで, 9つの反応の収率がいずれも 70%であると仮定しているので, L-チロキシンの物質量を M2 [mol] とすると, 次式が成立する。
M2 = 30×(70/100)9 = 30×(0.7)9 = 30×(1- 0.3)9 [mol]
ここで, 乗法公式 (a - b)3 = a3 - 3a2b + 3ab2 - b3 を使用すると,
(1- 0.3)3 = (1)3 - 3(1)2(0.3) + 3(1)(0.3)2 - (0.3)3 = 1 - 0.9 + 0.27 - 0.027 = 0.343
(1- 0.3)9 = {(1- 0.3)3}3 = (0.343)3 = 0.04035
よって
M2 = 30×0.04035 = 1.21 [mol]
L-チロキシンの重量は
L-チロキシンの重量 = 777×1.21 = 9.4×102 [g]
問4の答 53 [mg]
L-チロキシンの分子中の炭素原子数は, 図1-1を参照して, 15個存在する。そこで, 1mol の L-チロキシンを完全燃焼すると, 次式が成立する。
1mol の L-チロキシンの燃焼 → 15CO2 + (その他の生成物)
したがって, 1mol の L-チロキシンから 15 mol の二酸化炭素が発生する。そこで, 62mg の L-チロキシンを使用しているので,
その物質量 M [mol] は
M = (62×10-3)/777 = 0.0798×10-3 [mol]
よって, 発生する二酸化炭素 CO2 の重量は, 分子量 12 + 16×2 = 44 を使用して,
発生する二酸化炭素の重量 = 44×(15×0.0798×10-3) = 53×10-3 [g] = 53 [mg]
問5の答 (4)
図1-1中のL-チロキシンは, いま紙面の縦線にそって垂直な鏡の対称面を考えると, 鏡像の対称体(異性体)ができる。その対称体は D-チロキシンと呼ばれる。
図1-2中で, その対称体と一致するものは, [問題]本文中の「構造式において, 不斉炭素原子のまわりの結合の示し方, W, C, X, は紙面上にあり,
Z は紙面の手前に, Y は紙面の奥に存在する。」を考慮すると, (4)であることが分かる。
L-チロキシンの不斉炭素原子に結合している置換基の 1つを他のもう 1つの置換基と入れ替えても答になるので, 下図の構造も答である。また,
ベンゼン環上の炭素原子と単結合している側鎖の炭素原子の間の結合はその結合軸を中心にして回転する。
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