1章C 類題1-1(110616)                 TOP-C


[問題] 次文はマイケル・ファラデーによる1860年のクリスマス・レクチャー「ロウソクの化学」の抜粋である。これを読み, 後の I の問題に答えなさい。

 私達は, 皆さんがこうして, ここでの催しに関心を持たれて, 見に来て下さったことを光栄に思います。そのお礼に, このレクチャーで「ロウソクの化学」をご覧に入れようと思っています。
…(中略)…
 気流の向き次第で, 炎は上にも下にも向くことをお目にかけましょう。この小さな実験装置で簡単にできます。今度はロウソクではありません。煙が少ないアルコールの炎を使います。ただ, Aアルコールだけの炎は見にくいので, 別の物質[原注1]で炎に色をつけています。炎を下に吹いてやると, 気流が曲がるように細工した, この小さな煙突に, 炎が下向きに吸い込まれていくことがわかるでしょう(図1-1)。
 [原注1]:アルコールに塩化銅(II)を溶かしてあった。
             (image430)

 「レクチャー 2〜3 - 炎の出す光・水の生成・他」より
…(中略)…
 この黒い物質は何でしょうか?それはローソクの中にあるのと同じ炭素です。それは明らかにロウソク中に存在していたはずです。そうでなければここにあるはずがありません。固体の状態を保っている物質は, それ自身が燃えるものであろうが, なかろうが, 炎の中で明るく輝くのです。
 これは白金製の針金です。高温でも変化しない物質です。Bこれを炎の中で熱してみると明るく輝いているのがわかるでしょう。炎自身の光が邪魔にならないように, 炎を弱くしてみます。それでも炎が白金に与えられている熱は―炎自身の熱よりずっと少ないのですが―白金を輝かせています。
…(中略)…
 ここにはまた(別のビンを取りながら), オイルランプの燃焼で作られた水があります。1リットル(訳注1)の油をきちんと完全に燃やすと, 1リットル以上の水が生成します。Cこちらは蜜ロウソクから長い時間をかけて作った水です。このように, ほとんどの燃える物質は, ロウソクのように炎を出して燃える場合, 水を生成することがわかります。

 「レクチャー 4 - ロウソクの中の水素・燃えて水に・水の他の成分・酸素」 (略)

 「レクチャー 5 - 空気中の酸素・大気の性質・二酸化炭素」より
…(中略)…
 この物質をたくさん手に入れる, いい方法があります。おかげで, この物質のいろいろな性質を探求することができます。この物質は, ほとんどの皆さんが予想もしない所に大量にあります。D石灰石はどれでも, ロウソクから発生するこの気体―「二酸化炭素」と言います―を大量に含んでいます。チョーク(訳注2)も貝殻もサンゴも皆, この不思議な気体をたくさん含んでいます。この気体はこういう石の中に「固定」されているのです
 そして, これはとても重い気体です。空気よりも重いのです。その質量を, 表1-1の中の一番右に書いておきました。私達がこれまでに見てきた他の気体の質量も, 比較のために示してあります。

   表1-1 標準状態(0℃, 1atm)における28.0Lの気体の質量(訳注1)
水素 2.50g  酸素 40.0g  窒素 35.0g  空気 36.0g  二酸化炭素 57.0g

 「レクチャー 6 - 炭素/炭・石炭ガス・呼吸―燃焼との類似性・結び」より
 ご覧に入れたように, 炭素は固体の形のままで燃えます。そして皆さんがお気付きのように, 燃えた後は固体ではなくなるのです。このような燃え方をする燃料は, あまり多くはありません。
…(中略)…
 ここにもう一つ, よく燃える, 一種の燃料があります。ご覧のように空気中に振りまくだけで発火します。(発火性鉛[原注2]の詰まった管を割りつつ)この物質は鉛です。とても細かい粒子になっていて, 空気が表面にも中にも入り込めるので燃えるのです。
 しかし, こうやって(管の中身を, 鉄板の上に山のように積み上げる), かたまりにすると燃えないのはどうしてでしょうか?そう, 空気が入って行けないのです。まだ下に燃えていない部分があるのに,生成したものが離れてくれないので, 空気に触れることができず, 使われずに終わってしまうのです。何と, 炭素と違うことでしょう!先ほどご覧に入れたように, 炭素は燃えて, 灰を残さずに酸素の中に溶け込んでいきます。
 ところが, ここには(燃えた発火性鉛の灰を指して)燃やした燃料よりも沢山の灰があります。酸素が一体化した分だけ, 重たいのです。これで皆さんは, 炭素と鉛や鉄の違いがお分かり頂けたことと思います。
 [原注2]:発火性鉛は乾燥した酒石酸鉛をガラス管(片方を封じ, 他方を絞っておく)中で, 気体の発生がなくなるまで加熱することで得られる。最後にガラス管の開いてあった端をバーナの火で封じる。管を割って中身を空中に振り出すと, 赤い閃光を出して燃える。
 (Michael Faraday, "The Chemical History of a Candle", Dover, New York, 2002より)

 (訳注1):原文のヤード・ポンド法による記述は, 意図を損なわぬよう書き改めた。
 (訳注2):日本では, これと異なる物質でできたチョークも多く使われている。

I. 以下の問1〜4に答えなさい。必要であれば次の原子量を用いなさい。原子量:H=1.00, C=12.0, N=14.0, O=16.0, Ca=40.1, Pb=207.2

問1. 下線部Aおよび下線部Bで観察した光の説明として最も適切なものをA, Bそれぞれについて, 以下の(1)〜(5)から選び, その番号を答えなさい。

(1)
化合物中の炭素と水素の元素比により波長が異なる発光
(2) 電球のフィラメントなど高温の物質が出す光で, 物質の種類によらない
(3) 大気中の微粒子が太陽光を散乱して, 空が青く見えるのと同じ現象
(4) 金属原子やそのイオンが, 金属に固有の波長の光を放出する現象
(5) 化合物が電離したときに生成する, 陰イオンに特有の色

                   

問2. 下線部Cの蜜ロウソクの成分は, 100%セロチン酸(分子式C26H52O2)であるとする。99gの蜜ロウソクの燃焼から生成する水の質量を求めなさい。答に到る計算過程も示すこと。答の数値は有効数字三桁とする。

                   

問3.
下線部Dについて, この固定された二酸化炭素を取り出す方法を一つ, 化学反応式を示した上で説明しなさい。

                    

問4.
表1-1の窒素および二酸化炭素の質量から, 窒素および二酸化炭素の質量の分子量を計算し, 上記の原子量から計算される分子量を比較しなさい。これらの気体は理想気体であるとする。