答                                 元の問題へ


問1の答        ア : Ka + Kb    イ : KcKd/(Kc + Kd)


● 固体グリシン H2N-CH2-COOH (またはH3+N-CH2-COO- )を酸性水溶液に溶解すると,

                H2N-CH2-COOH(s) + H+(aq) → H3+N-CH2-COOH(aq)

 または,

                H3+N-CH2-COO-(s) + H+(aq) → H3+N-CH2-COOH(aq)

 平衡状態において, H2N-CH2-COOH (またはH3+N-CH2-COO- )では, 次の2つの状態が存在する。

                H3+N-CH2-COOH(aq) ⇄ H3+N-CH2-COO-(aq) + H+(aq) …(1)

                H3+N-CH2-COOH(aq) ⇄ H2N-CH2-COOH(aq) + H+(aq) …(2)

 ここで, その水溶液に水酸化ナトリウム水溶液(Na+(aq) + OH-(aq))を滴下すると, 第1段階の中和反応において, (1)と(2)の中の H+ の1部が水酸化ナトリウム水溶液中の OH- の1部と次のように反応する。

                         H+(aq) + OH-(aq) → H2O(l)

 しかしながら, (1)と(2)を含む電離定数 K1 は, 第1段階の中和反応が行われても, 一定で変化しない。

 (1)と(2)の式において, 平衡状態での各化学種の物質量 n は, 左辺の化学種と右辺の化学種に分けて考慮すると,

 (a) 左辺の化学種は, H3+N-CH2-COOH(G+)で (1)での物質量は       n1(G+)
                               (2)での物質量は       n2(G+)

 (b) 右辺の化学種は, H3+N-CH2-COO-(G±)で(1)での物質量は       n1(G±)
               H+で(1)での物質量は                     n1(H+)
               H2N-CH2-COOH(G0)で(2)での物質量は        n2(G0)
               H+で(2)での物質量は                    n2(H+)

 ここで, (1)と(2)を含む電離定数 K1 は,

                   K1 = {n1(G±)n1(H+) + n2(G0)n2(H+)}/{n1(G+) + n2(G+)}

                     = {[G±][H+] + [G0][H+]}/[G+]

                     = [G±][H+]/[G+] + [G0][H+]/[G+] = Ka + Kb …( ア )

● 水酸化ナトリウム水溶液をさらに滴下すると, 第2段階の中和反応において, 次の2つの平衡状態が存在する。

                 H3+N-CH2-COO-(aq) ⇄ H2N-CH2-COO-(aq) + H+(aq) …(1)'

                 H2N-CH2-COOH(aq) ⇄ H2N-CH2-COO-(aq) + H+(aq) …(2)'

 ここで, 左辺のH3+N-CH2-COO-(aq)とH2N-CH2-COOH(aq)は, (1)と(2)の右辺の化学種である。

 (1)'と(2)'の式において, 平衡状態での各化学種の物質量 n' は, 左辺の化学種と右辺の化学種に分けて考慮すると,

 (a) 左辺の化学種は, H3+N-CH2-COO-(G±)で(1)'での物質量は       n1'(G±)
               H2N-CH2-COOH(G0)で(2)'での物質量は        n2'(G0)

 (b) 右辺の化学種は, H2N-CH2-COO-(G-)で(1)'での物質量は         n1'(G-)
               H+で(1)'での物質量は                     n1'(H+)
               H2N-CH2-COO-(G-)で(2)'での物質量は        n2'(G-)
               H+で(2)'での物質量は                     n2'(H+)

 ここで, (1)'と(2)'を含む電離定数 K2

                K2 = {n1'(G-)n1'(H+) + n2'(G-)n2'(H+)}/{n1'(G±) + n2'(G0)}

                  = [G-][H+]/{[G±] + [G0]}

                  = 1/{[G±] + [G0]}/[G-][H+] = 1/X

 分母のXにおいて,

                X = {[G±] + [G0]}/[G-][H+] = [G±]/[G-][H+] + [G0]/[G-][H+]

                 = 1/[G-][H+]/[G±] + 1/[G-][H+]/[G0] = 1/Kc + 1/Kd = (Kc + Kd)/KcKd

 よって, K2

                          K2 = KcKd/(Kc + Kd) …( イ )


問2の答      ウ : Kb


 グリシンのメチルエステルは, グリシンとメタノールとが脱水反応でエステル結合により生成されるので, その分子式は次のようになる。

                        H2N-CH2-CO-O-CH3

 溶媒の水に溶かすと

           H2N-CH2-CO-O-CH3(l) + H2O ⇄ H3N+-CH2-CO-O-CH3(aq) + OH-(aq)

            H3N+-CH2-CO-O-CH3(aq) ⇄ H2N-CH2-CO-O-CH3(aq) + H+(aq) …(i)

 (i)式において, 電離定数 KE が成立する。

 一方, 問1の解説の中で(2)は次のようになり, その電離定数は Kb である。

              H3+N-CH2-COOH(aq) ⇄ H2N-CH2-COOH(aq) + H+(aq) …(2)

 ここで, (i)と(2)において, どちらも1価の負イオンが0価の分子になっているので, (i)と(2)の電離定数KEとKbは等価と仮定することができる。


問3の答     2.3×105


 [問題]本文および問1と2を考慮すると,

                    K1 = Ka + Kb = 4.5×10-3 mol/L …(a)

                    Kb = 2.0×10-8 mol/L …(b)

                    Ka = [G±][H+]/[G+] …(c)

                    Kb = [G0][H+]/[G+] …(d)

 (a)と(b)から

                    Ka = 4.5×10-3 - 2.0×10-8 …(e)

 (c)と(d)および(b)と(e)から

                    [G±]/[G0] = Ka/Kb = (4.5×10-3 - 2.0×10-8)/(2.0×10-8)

                           ≒ 2.3×105

 以上から, グリシンの酸性水溶液では, 双生イオン型のグリシンが大部分を占めることがわかる。


問4の答      3.8×10-5


 問3の答および問1(イ)の答から,

                        [G±]/[G0] ≒ 2.3×105

                        KcKd/(Kc + Kd) = 1.7×10-10

 また, Kc = [G-][H+]/[G±] と Kd = [G-][H+]/[G0] を参照すると,

                         Kd/Kc = [G±]/[G0]

 以上から,

                      Kd/Kc = [G±]/[G0] = 2.3×105

          KcKd/(Kc + Kd) = Kd/(1 + Kd/Kc) = Kd/(1 + 2.3×105) = 1.7×10-10

 よって

            Kd = (1.7×10-10)×(1 + 2.3×105) ≒ 1.7×10-10 + 3.8×10-5

              ≒ 3.8×10-5 [mol/L]