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問1の答
( ア ) : K1[H2A]/[H+] ( イ ) : K1K2[H2A]/[H+]2 ( ウ ) : 1/(1 + K1/[H+] + K1K2/[H+]2)
H2A ⇄ HA- + H+ K1 = [HA-][H+]/[H2A] …(i)
HA- ⇄ A2- + H+ K2 = [A2-][H+]/[HA-] …(ii)
[HA-] は (i) から次のようになる。
[HA-] = K1[H2A]/[H+] …(iii) : ( ア )
[A2-] は, (ii)と(iii)から
[A2-] = K2[HA-]/[H+] = (K2/[H+])[HA-] = (K2/[H+]){K1[H2A]/[H+]} = K1K2[H2A]/[H+]2
よって
[A2-] = K1K2[H2A]/[H+]2 …(iv) : ( イ )
水溶液中に存在するシュウ酸のモル濃度を c とすると,
c = [H2A] + [HA-] + [A2-] (1)
式(1)に(iii)と(iv)を代入し整理すると,
c = [H2A] + [HA-] + [A2-] = [H2A] + K1[H2A]/[H+] + K1K2[H2A]/[H+]2
= [H2A]{1 + K1/[H+] + K1K2/[H+]2}
よって,
[H2A]/c = 1/(1 + K1/[H+] + K1K2/[H+]2) : ( ウ )
問2の答 ( あ ) : 5.4×102 ( い ) : 2.9×102
問1の解説から
[H2A]/c = 1/(1 + K1/[H+] + K1K2/[H+]2) …(a)
[HA-]/c において, 問1の解説を参照して,
c = [H2A]{1 + K1/[H+] + K1K2/[H+]2}
[HA-] = K1[H2A]/[H+]
を用いると,
[HA-]/c = K1[H2A]/[H+]×1/[H2A]{1 + K1/[H+] + K1K2/[H+]2}
= K1[H2A]×1/[H+][H2A]{1 + K1/[H+] + K1K2/[H+]2}
= K1×1/[H+]{1 + K1/[H+] + K1K2/[H+]2}
= K1/{[H+] + K1 + K1K2/[H+]}
整理すると,
[HA-]/c = K1/{[H+] + K1 + K1K2/[H+]} …(b)
[A2-]/c においては,
c = [H2A]{1 + K1/[H+] + K1K2/[H+]2}
[A2-] = K1K2[H2A]/[H+]2
を用いると,
[A2-]/c = K1K2[H2A]/[H+]2×1/[H2A]{1 + K1/[H+] + K1K2/[H+]2}
= K1K2[H2A]×1/[H+]2[H2A]{1 + K1/[H+] + K1K2/[H+]2}
= K1K2×1/[H+]2{1 + K1/[H+] + K1K2/[H+]2}
= K1K2/{[H+]2 + K1[H+] + K1K2}
整理すると,
[A2-]/c = K1K2/{[H+]2 + K1[H+] + K1K2} …(c)
以上から, [H2A] : [HA-] : [A2-] において, (a), (b), および (c) を用いると,
[H2A] : [HA-] : [A2-] = 1
: K1(1 + K1/[H+] + K1K2/[H+]2)/{[H+] + K1 + K1K2/[H+]}
: K1K2(1 + K1/[H+] + K1K2/[H+]2)/{[H+]2 + K1[H+] + K1K2}
= 1
: (K1/[H+])(1 + K1/[H+] + K1K2/[H+]2)/{1 + K1/[H+] + K1K2/[H+]2}
: (K1K2/[H+]2)(1 + K1/[H+] + K1K2/[H+]2)/{1 + K1/[H+] + K1K2/[H+]2}
= 1 : K1/[H+] : K1K2/[H+]2
よって,
[H2A] : [HA-] : [A2-] = 1 : K1/[H+] : K1K2/[H+]2
緩衝作用が現れているシュウ酸水溶液では,
pH = 4
よって,
[H+] = 10-4 [mol/L]
電離定数の値は,
K1 = 5.4×10-2 [mol/L] K2 = 5.4×10-5 [mol/L]
以上から, 緩衝作用が現れているシュウ酸水溶液での濃度比 [H2A] : [HA-] : [A2-] において
[H2A] : [HA-] : [A2-] = 1 : K1/[H+] : K1K2/[H+]2
= 1 : (5.4×10-2)/10-4 : (5.4×10-2)(5.4×10-5)/(10-4)2
= 1 : 5.4×102 : 2.9×102 = 1 : ( あ ) : ( い )
問3の答
水溶液中の平衡状態でのHA-とA2-は, H2Aと比較すると, 数百倍多く存在している。したがって, 新たに少量の酸や塩基を加えても, 平衡状態でのHA-やA2-の濃度がかなり大きいために, それらのイオン は加えた酸や塩基から生じるH+やOH-と反応しpHはほとんど変動しない。
● 図1を参照して,
(i) NaOH水溶液滴下量 0~8 mL
25℃, 8.0×10-2 mol/L 弱酸のシュウ酸水溶液(100 mL)では, 次の平衡状態にある。
H2A ⇄ HA- + H+
HA- ⇄ A2- + H+
上の平衡状態にあるシュウ酸水溶液に 1.0 mol/L のNaOH水溶液を滴下すると, 次のように中和反応が生じる。
NaOH → Na+ + OH-
H+ + OH- ⇄ H2O
そこで, H+が消費されるために, 次式において, 平衡が右に移動し, 弱酸の塩中の陰イオン部分に相当する HA- と A2- が生成される。
H2A ⇄ HA- + H+
HA- ⇄ A2- + H+
ここで, 水のイオン積 KW = [H+][OH-] = 10-14 (25℃) が成立している。
NaOH水溶液滴下量 5 mL では, 図1から, pH は約 2.0 であるから, その水溶液での H2A, HA-, A2- の濃度比([[H2A] = 1 とする)は
[H2A] : [HA-] : [A2-] = 1 : K1/[H+] : K1K2/[H+]2
= 1 : (5.4×10-2)/10-2 : 2.9×10-6/(10-2)2
= 1 : 5.4 : 2.9×10-2
計算結果として, 滴下量 5 mL 付近での水溶液では, H2A ([H2A] = 1とする)に対して, HA- の濃度は約 5倍で, A2- はわずかである。
このことは, 主として H2A ⇄ HA- + H+ の平衡が右に移動したことを意味する。また, 新たに少量の酸や塩基を加えると, 平衡状態での HA- や A2- の濃度が比較的大きくないために, その HA- や A2- は加えた酸や塩基から生じる H+ や OH- を緩衝できず, 水溶液のpH が変動する。
(ii) NaOH水溶液滴下量 8~13 mL
NaOH水溶液滴下量 8 mL で第1中和点が見られる。
滴下量 11 mL では, pH は 4.0 であるから, その水溶液での H2A, HA-, A2- の濃度比は, すでに問2で計算したように次のようになる。
[H2A] : [HA-] : [A2-] = 1 : 5.4×102 : 2.9×102
計算結果として, 滴下量 11 mL 付近での水溶液では, H2A ([H2A] = 1とする)に対して, HA- と A2- は同程度でかなり多く存在している。
このことは, H2A ⇄ HA- + H+ と HA- ⇄ A2- + H+ の平衡が同程度に右に移動したことを意味する。また, 新たに少量の酸や塩基を加えると, 平衡状態での HA- や A2- の濃度がかなり大きいために, その HA- や A2- は加えた酸や塩基から生じる H+ や OH- を次のように緩衝することができ, 水溶液のpH があまり変動しない。
HA- + H+ → H2A HA- + OH- → A2- + H2O
A2- + 2H+ → H2A
(iii) NaOH水溶液滴下量 13~20 mL
NaOH水溶液滴下量 16 mL で第2中和点が見られる。
滴下量 18 mL では, pH は 12.0 であるから, その水溶液での H2A, HA-, A2- の濃度比は
[H2A] : [HA-] : [A2-] = 1 : K1/[H+] : K1K2/[H+]2
= 1 : (5.4×10-2)/10-12 : 2.9×10-6/(10-12)2
= 1 : 5.4×1010 : 2.9×1018
計算結果として, 滴下量 18 mL 付近での水溶液では, H2A ([H2A] = 1とする)に対して, A2- の濃度は非常に大きく, 水溶液中には H2A と HA- は, A2- と比較して, ほとんど存在しない。
このことは, 主として HA- ⇄ A2- + H+ の平衡が右に移動したことを意味する。また, 新たに塩基を加えると, その塩基から生じる OH- がそのまま直接水溶液の pH値に影響を与える。
● 一般に水溶液での緩衝作用とは, ある1つの弱酸または弱塩基がそれらの弱酸または弱塩基の塩と共に水溶液を作って平衡状態にあるとき, その水溶液中へ酸あるいは塩基の少量の量を加えても
pH値がほとんど変化せず一定であることを意味する。