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問1の答 J : 安息香酸 L : グリセリン
問題文中から, 次のことがわかる。
化合物 H は
(1) 不斉炭素原子を 1個もつ。
(2) 分子式は C27H28O8
(3) 水素付加で不斉炭素原子のない化合物 I (C27H30O8) が得られた。
(4) 分子中に 4個のエステル結合をもつ。
(5) 完全に加水分解すると 4種類の化合物 J, K, L, M が得られた。
化合物 J は
(6) 一価カルボン酸である。
(7) トルエンの空気酸化で得られる。
化合物 K は
(8) 分子式は C3H8O
(9) 酸化でカルボニル基を有する化合物 N になった。
(10) 化合物 N の水溶液は中性である。
(11) 化合物 N はフェーリング液に反応せず還元性を持たない。
化合物 L は
(12) 粘性の高いアルコールである。
(13) 高級脂肪酸とのエステルは油脂と呼ばれる。
化合物 M は
(14) 分子式はC7H8O4
(15) 同一炭素に 2個のカルボキシル基が結合した二価カルボン酸である。
(16) カルボキシル基を 2個とも水素原子に置き換えると, 五員環構造を有するシクロペンテンになる。
● 化合物 J の(6)と(7)から, 次式が考えられる :
C6H5CH3 (トルエン) → (空気酸化) → C6H5COOH (一価のカルボン酸)
よって, 化合物 J は
安息香酸 : C6H5COOH
● 化合物 L の(11)と(12)から, 次式が考えられる :
C3H5(OH)3 (粘性アルコール) → (高級脂肪酸とのエステル結合)
→ C3H5(OCOR1)(OCOR2)(OCOR3) (油脂, R1, R2, R3 は炭化水素基を主とする)
よって, 化合物 L は
グリセリン : C3H5(OH)3
問2の答 (ウ) (オ)
問1の解説
K:CH3-CH(OH)-CH3 (Hの加水分解で生成されるアルコール) →
(酸化) → N:CH3-CO-CH3 (カルボニル化合物, 水溶液は中性で還元性なし)
を参照すると,
(ア)において, 化合物 K と N をそれぞれ完全燃焼させると,
K : C3H8O + (9/2)O2 → 3CO2 + 4H2O … (物質量比) 二酸化炭素 : 水 = 3 : 4
N : C3H6O + 4O2 → 3CO2 + 3H2O … (物質量比) 二酸化炭素 : 水 = 1 : 1
よって, (ア)は誤
(イ)において, K は金属ナトリウムと反応して水素を発生する :
2C3H7OH + Na → 2C3H7ONa + H2
K はアルコールで酸性はなく, 炭酸水素ナトリウム水溶液とは反応しない。
よって, (イ)は誤
(ウ) において, 分子式は
K : C3H8O
エチルメチルエーテル : C3H8O (C2H5-O-CH3)
Kとエチルメチルエーテルの分子式は同一で構造異性体の関係にある。K は分子中に炭素数が少なくしかもヒドロオキシ基があるので, 分子間にファンデルワールス力による結合に加えて水素結合が存在する。一方,
エチルメチルエーテルはファンデルワールス力による結合だけである。沸点は主として分子間の結合の強弱に影響される。
そこで,
K の分子間結合力 > エチルメチルエーテルの分子間結合力
よって, アルコールの K の沸点が高い。(ウ)は正
イソプロピルアルコール(K): 82.4℃, エチルメチルエーテル:10.8℃
(エ)において, アルコール K は水に溶解し, その水溶液は中性をしめす。 その水溶液にアニリン塩酸塩を加えても反応しない。ただ, 次のように, アニリン塩酸塩は電離し H+ を生じて酸性をしめす :
C6H5NH3Cl → C6H5NH3+ + Cl- ⇄ C6H5NH2 + H+ + Cl-
よって, (エ)は誤
(オ)において, K と N の分子中に次の基が存在するので, ともにヨードホルム反応に陽性を示す。
CH3-CH(OH)- および CH3-CO-
よって, (オ)は正
問3の答 24 g
1mol のH を完全に加水分解すると, 問1の解説を参照して, 次のように2mol のJ を生じる :
C27H28O8 + 4H2O → 2C6H5COOH(J) + C3H7OH + C3H5(OH)3 + C5H6(COOH)2
48.0g のH は, 分子量が 480 であるので, H の物質量 mH は
mH = 48.0/480 = 0.10 mol
生成される J の物質量 mJ は
mJ = 2mH = 0.20 mol
J の質量 WJ (g) は, 分子量 C7H6O2 = 12×7 + 1×6 + 16×2 = 122 であるので,
WJ = 122×0.20 = 24.4 g ≒ 24 g
問4の答
(image487)
● 問1の解説 (1)~(16) の考慮において, Hの構造は, まず次式が考えられる :
H:C27H28O8 (二重結合1つ存在, 不斉炭素原子1個存在)) + H2 → I:C27H30O8 (不斉炭素原子なし)
上の式から, H は不斉炭素原子をもつので,
R1-C$R3(R4)-R2
ここで, R1基と R2基のいずれかに二重結合が 1つ存在し, 水素原子2個付加で同じものとなる。R3基とR4基は異なった基である。C$は不斉炭素原子を表わす。
● Hを加水分解すると,
C27H28O8(H, エステル結合4個存在) + 4H2O →
2C6H5COOH(J) + C3H7OH(K, 分子量C3H8O) + C3H5(OH)3(L)
+ C5H6(COOH)2(M, 分子量C7H8O4)
ここで,
K:CH3-CH(OH)-CH3 (Hの加水分解で生成されるアルコール) →
(酸化) → N:CH3-CO-CH3 (カルボニル化合物, 水溶液は中性で還元性なし)
M:*-CH2-CH=CH-C(COOH)2-CH2-*
(左端*と右端*が直接結合で環状, 同一炭素原子に2個のカルボキシル基, 生成されるシクロペンテンで二重結合1つ存在) → (カルボキシル基
2個を水素原子で置換) →
*-CH2-CH=CH-CH2-CH2-* (シクロペンテン)
● 以上から, H の構造は,
*-CH2-CH=CH-C$(CO-OC3H7){CO-O-C3H5(O-CO-C6H5)2}-CH2-*
ただし, C$は不斉炭素原子を表わす。
水素付加すると, 次のように不斉炭素原子が無くなる :
*-CH2-CH=CH-C$(CO-OC3H7){CO-O-C3H5(O-CO-C6H5)2}-CH2-* + H2 →
*-CH2-CH2-CH2-C(CO-OC3H7){CO-O-C3H5(O-CO-C6H5)2}-CH2-*
構造式は問4の答の図参照。