答                                 元の問題へ


問1の答   (ア)新油性  (イ)親水性  (ウ)ミセル


● 飽和脂肪酸であるラウリン酸において, アルキル基(C11H23-)部分は, 炭素骨格が飽和結合で, ほとんど極性がなく, 電荷的に中性であるため, 溶媒としての無極性の油などになじみ易い。すなわち, アルキル基(C11H23-)は新油性(に相当)である。
 それに対して, カルボキシル基の-COOH をもう少し詳しく記述すると, -COO-H+ のようになり, -COO- と H+ の間がイオン性の結合をしている。そのために, カルボキシル基は極性があり, 溶媒としての極性の水などになじみ易い。 すなわち, カルボキシル基(-COOH) は親水性(に相当)である。
 水溶液中のラウリン酸ナトリウム RCOONa の濃度を高くすると, ある数のRCOO- は, 球状の集合体となり, 球状内部は油性部分の R で占められ, 球状表面の外側は-COO- で覆われて, かなり大きい親水性コロイド粒子となって水中で安定に分散する。この集合体はミセル(に相当)と呼ばれている。


問2の答   (a) 2.2×10-5  (b) 4.0×10-8


● 二酸化炭素は, 大気中にかなり存在する(体積組成%で4番目の 0.03%)ので, 1L の水を十分な時間で大気と接触させと, 水に溶けて, 次式のように炭酸を生じる(問題参照) :

  CO2(気) ⇄ CO2(液)

  CO2(液) + H2O(液) ⇄ H2CO3(液)  …(1)

 式(1)の化学平衡式では, 多量の水の濃度は一定とみなせるので, 次のように, 平衡定数の式が成立する(問題参照) :

  [H2CO3]/[CO2] = 1.8×10-3  …(2)

 生じた炭酸は, 次の化学平衡式のように, 2段階で電離し, それぞれに平衡定数式が存在する(問題参照) :

  H2CO3(液) ⇄ HCO3-(液) + H+(液),  [HCO3-][H+]/[H2CO3] = 2.5×10-4 mol/L  …(3)

 および

  HCO3-(液) ⇄ CO32-(液) + H+(液),  [CO32-][H+]/[HCO3-] = 4.7×10-11 mol/L  …(4)

 ここで, 問題において「十分な時間で大気と接触させた水の pH は 5.5 で, あった」ことから, 水素イオン濃度 [H+] は

  pH = -log[H+] = 5.5

  [H+] = 10-5.5 mol/L

 また, 「酸性条件では炭酸の 2段目の電離は無視できる」ことから, 式(4)を無視して式(3)を考慮すると,

  [H+] = [HCO3-] = 10-5.5 mol/L

 よって

  [H2CO3] = [HCO3-][H+]/(2.5×10-4) = [H+]2/(2.5×10-4) = 10-11/(2.5×10-4)

        = 0.4×10-7 = 4.0×10-8 mol/L  …(5) (b に相当)

 かくして, 式(2)に(5)の値を代入し変形すると,

  [CO2] = [H2CO3]/(1.8×10-3) = (4.0×10-8)/(1.8×10-3) = 2.2×10-5 mol/L …a に相当

 ここで, 問題の「計算の過程で y/x ≦ 0.01 であるとき, x + y = x と近似すること」を考慮し, x = 2.2×10-5 mol/L, y = 0.02×10-5 mol/L とすると,

  y/x = 0.009…< 0.01

 したがって

  x + y = x = 2.2×10-5 mol/L … [CO2]の有効数値は2桁とすることを意味する。

 よって, 上の化学平衡式(1)において,

  [CO2] = 2.2×10-5 mol/L …(a)

  [H2CO3] = 4.0×10-8 mol/L …(b)

 
であるので,

  CO2(液, 2.2×10-5 mol/L) + H2O(液) ⇄ H2CO3(液, 4.0×10-8 mol/L)


● さらに, ラウリン酸ナトリウム RCOONa 4.66g を, 上述の水溶液に溶かすと, 次のようにほぼ完全に電離して溶解する :

  RCOONa(固) → RCOO-(液) + Na+(液)  …(6)

 よって, 式(6)において, 生じた RCOO-(液) の物質量は, RCOONa(固)と同値でその分子量が 222 であるので,

   RCOO-(液) の物質量 = 4.66/222 ≒ 0.021 [mol/L]

 また, Na+(液)の物質量も, 同値となる。

  [Na+] = 0.021 [mol/L]

 式(6)で生じた ラウリン酸イオンの RCOO-(液) が水と反応して, 次のようになる :

  RCOO-(液) + H2O → RCOOH(固, 微結晶) + RCOOH(液) + OH-(液) …(7)

 式(7)において, 水溶液中の pH は, pH = -log[H+] = 8.0 であるので, 1L水溶液中の H+ の物質量は

  [H+] = 1.0×10-8 [mol/L]

 よって, OH- の物質量は,

  H2O ⇄ H+ + OH-  水のイオン積 = [H+][OH-] ≒ 1.0×10-14 [mol/L]2  at 25℃

 の水のイオン積を使用して,

  [OH-] = 10-14/10-8 = 1×10-6 [mol/L]

 また, 式(6)で生じたラウリン酸イオンの RCOO-(液) の1部が, 微結晶(固体)となって析出していることを考慮すると, 微結晶を生じ始める直前の 1L水溶液中のRCOO-(液) の物質量は, 次の化学平衡式のイオン積 Ksp を使用して求められる :

  RCOOH(個) ⇄ RCOO-(液) + H+(液),   Ksp = 2.0×10-10 [mol/L]2 

 ここで, イオン積 Ksp

  Ksp = [RCOO-][H+] = [RCOO-](10-8) = 2.0×10-10 [mol/L]2

 よって, 微結晶を生じ始める直前の水溶液 1L中のRCOO-(液) の物質量は

  [RCOO-] = 2.0×10-10/10-8 = 2.0×10-2[mol/L]

 以上から, ラウリン酸ナトリウムから生じた RCOO-(液)において, 微結晶になった RCOO- の物質量は

  微結晶になった RCOO- の物質量 = 0.021 - 2.0×10-2 = 0.001 [mol]

 よって, 式(7)において

  [RCOO-] = 2.0×10-2 mol/L …b [mol]に相当

  [OH-] = 1×10-6 mol/L

 であるので

  RCOO-(液, 2.0×10-2 mol/L) + H2O ⇄ RCOOH(液) + OH-(液, 1×10-6 mol/L)


問3の答  [HCO3-] + 2[CO32-] + [RCOO-] +[OH-]


 十分な時間で二酸化炭素を含む大気と接触させた水は, 次の平衡状態で酸性になっている :

  CO2(液) + H2O(液) ⇄ H2CO3(液) …(1)

  H2CO3(液) ⇄ HCO3-(液) + H+(液) …(2)

  HCO3-(液) ⇄ CO32-(液) + H+(液) …(3)

 その水溶液に弱酸と強塩基からできているラウリン酸ナトリウムを加えると, 水と反応して, 次のようにその水溶液は OH- が生じて塩基性となる :

  RCOONa(固) → RCOO-(液) + Na+(液) …(4)

  RCOO-(液) + H2O(液) ⇄ RCOOH(液) + OH-(液) …(5) 

 ただし, 生成される RCOOH は1部微結晶になるので, 式(5)の RCOO-(液)の濃度は上の式(4)の RCOO-(液)の濃度と一致しないことに注意する。
 生じた OH- の 1部が, 平衡で存在している H+ の1部と反応するために, 式(2)と(3)の平衡が右側に移動し, それに従って 式(3)で CO32- が生じる。
 以上の平衡状態の水溶液では, 水溶液中での陽イオンと陰イオンの電荷量が等しいことから, 式(2)~(5)を考慮すると, 次式が成立する :

  [H+] + [Na+] = [HCO3-] + 2[CO32-] + [RCOO-] +[OH-] …問題文式(7)のA に相当

 ここで, CO32- は 2価のイオンなので, その電荷量は 2倍になる。


問4の答   (c) 2.2×10-5  (d) 9.9×10-4  (e) 4.7×10-6


● 問題2と3の解説を参照すると, 大気と水の接触で

  CO2(液, 2.2×10-5 mol/L) + H2O(液) ⇄ H2CO3(液, 4.0×10-8 mol/L) …(ア)

 ラウリル酸ナトリウムを溶かすと,

  RCOONa(固, 0.021) → RCOO-(液, 0.021mol/L) + Na+(液, 0.021mol/L) …(イ)

 式(ア)は

  CO2(液) + H2O(液) ⇄ H2CO3(液) …(ア)’ (各化学種の濃度が(ア)と比較して変化)

 となる。

 RCOO-(液)の1部 RCOO-(液)は, 問2の解説を参照すると,

  RCOO-(液, 2.0×10-2 mol/L)+ H2O(液) ⇄ RCOOH(液) + OH-(液, 1×10-6 mol/L) …(ウ)

 その他のRCOO-(液)は微結晶の RCOOH(固) になる。

 pH = 8 と水のイオン積

  H2O(液) ⇄ H+(液) + OH-(液)   [H+][OH-] = 1.0×10-14 [mol/L]2 at 25℃ …(エ)

 から

  [H+] = 1.0×10-8 mol/L

  [OH-] = 10-14/10-8 = 1.0×10-6 mol/L)

 式(ア)’式中のH2CO3(液)において, 1段目の電離で

  H2CO3(液) ⇄ HCO3-(液) + H+(液, 1.0×10-8 mol/L)

  [HCO3-][H+]/[H2CO3] = 2.5×10-4 mol/L

 よって

  [HCO3-] = (2.5×10-4)×[H2CO3]/[H+] = (2.5×10-4)×(4.0×10-8)/(1.0×10-8)

               = 10×10-4 = 1.0×10-3 mol/L

 上の 1段目の平衡式は

  H2CO3(液, 4.0×10-8 mol/L) ⇄ HCO3-(液, 1.0×10-3 mol/L)

                      + H+(液, 1.0×10-8 mol/L) (オ)

 2段目の電離が無視できなくなると, 式(オ)は

  H2CO3(液) ⇄ HCO3-(液) + H+(液) …(オ)’  (各化学種の濃度が(オ)と比較して変化)

 になる。 したがって, 2段目の電離式は

  HCO3-(液) ⇄ CO32-(液) + H+(液, 1.0×10-8 mol/L)

  [CO32-][H+]/[HCO3-] = 4.7×10-11 mol/L

 よって

  [CO32-] = (4.7×10-11)×[HCO3-]/[H+] = (4.7×10-11)×[HCO3-]/(1.0×10-8)

            = 4.7×10-3×[HCO3-] mol/L

 かくして, 上の 2段目の平衡式は

  HCO3-(液) ⇄ CO32-(液, 4.7×10-3×[HCO3-] mol/L) + H+(液, 1.0×10-8 mol/L) …(カ)

 以上から

 式(イ)より  [Na+] = 0.021mol/L

 式(エ)より  [H+] = 1.0×10-8 mol/L,  [OH-] = 1.0×10-6 mol/L

 式(ウ)より  [RCOO-] = 2.0×10-2 mol/L

 式(カ)より  [CO32-] = 4.7×10-3×[HCO3-] mol/L

 問題文中の式(7)

  [H+] + [Na+] = [HCO3-] + 2[HCO3-] + [RCOO-] + [OH-]

 に, 上の各値を代入すると,

  (1.0×10-8) + (0.021) = [HCO3-] + 2×4.7×10-3×[HCO3-] + (2.0×10-2) + (1.0×10-6)

  0.021 = 1.01×[HCO3-] + 0.02

  0.001 = 1.01×[HCO3-]

 よって

  [HCO3-] = 9.9×10-4 mol/L

 また, 式(ア)から

  [CO32-] = 4.7×10-3×[HCO3-] = 4.7×10-3×9.9×10-4 = 46.53×10-7 = 4.7×10-6 mol/L


 以上から

  [CO2] = 2.2×10-5 mol/L …c mol/L に相当

  [HCO3-] = 9.9×10-4 mol/L …d mol/L に相当

  [CO32-] = 4.7×10-6 mol/L …e mol/L に相当


 また, 各化学平衡式に, その化学種の濃度[mol/L]を入れてまとめると,

● 大気と水の接触で

  CO2(気) ⇄ CO2(液, 2.2×10-5 mol/L)

  CO2(液, 2.2×10-5 mol/L) + H2O(液) ⇄ H2CO3(液, 4.0×10-8 mol/L)

  H2CO3(液, 4.0×10-8 mol/L) ⇄ HCO3-(液, 1×10-5.5) + H+(液, 1×10-5.5 mol/L)

● ラウリン酸ナトリウムを加えると

  RCOONa(固, 0.021) → RCOO-(液, 0.021mol/L) + Na+(液, 0.021mol/L)

 RCOO-(液, 0.021mol/L)において,

  H2O(液) ⇄ H+(液, 1.0×10-8 mol/L) + OH-(液, 1.0×10-6 mol/L)

  RCOO-(液, 2.0×10-2 mol/L) + H+(液, 1.0×10-8 mol/L) ⇄ RCOOH(液)

 上の 2式を 1つの式にまとめると,

  RCOO-(液, 2.0×10-2 mol/L) + H2O(液) ⇄ RCOOH(液) + OH-(液, 1.0×10-6 mol/L)

  RCOO-(液, 0.001mol/L) + H+(液, 微量) ⇄ RCOOH(固, 微結晶)

  CO2(気) ⇄ CO2(液, 2.2×10-5 mol/L)

  CO2(液, 2.2×10-5 mol/L) + H2O(液) ⇄ H2CO3(液, 4.0×10-8 mol/L)

  H2CO3(液, 4.0×10-8 mol/L) ⇄ HCO3-(液, 9.9×10-4 mol/L) + H+(液, 1.0×10-8 mol/L)

  HCO3-(液, 9.9×10-4 mol/L) ⇄ CO32-(液, 4.7×10-6 mol/L) + H+(液, 1.0×10-8 mol/L)


 なお, 上述の各化学平衡式において, 下の平衡定数がほぼ成立している。

  [H+][OH-] = 1.0×10-14

  [RCOO-][H+] = 2.0×10-10

  [H2CO3]/[CO2] = 1.8×10-3

  [HCO3-][H+]/[H2CO3] = 2.5×10-4

  [CO32-][H+]/[HCO3-] = 4.7×10-11