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問1の答 (い)
[理由]
図2の化合物Bはα-アミノ酸で両性電解質に相当する。その分子中のα炭素には 酸性を示す1個のカルボキシル基-COOHと 塩基性を示す1個のアミノ基-NH2を持つ。純粋の水中(pH = 7.0)で易溶のα-アミノ酸(化合物B)は, カルボキシル基から電離する水素イオンとアミノ基に付加する水素イオンの数は等しく,
その結果として, 主に次の双生イオンを生じている(α-アミノ酸の結晶は双生イオンから成る)。
R-CH(NH3+)COO- (双生イオン)
ここで, Rは, 本問題において, CH2OHの基を意味する。上述の双生イオンを含む水溶液(pH = 7)に, 水酸化ナトリウム水溶液を滴下して行くと, 次の中和反応が起きる。
R-CH(NH3+)COO- + OH- → R-CH(NH2)COO- + H2O …(i)
ここで, 生成されるR-CH(NH2)COO-のイオンは, 次のように直ちに加水分解されて水酸化物イオンOH-を生じ, 水溶液はアルカリ性を示す。
R-CH(NH2)COO- + H2O → R-CH(NH2)COOH + OH- …(ii)
さらに, 水酸化ナトリウム水溶液を滴下すると, 上の式(ii)で生成された R-CH(NH2)COOH は, 双生イオンになる前に, 水酸化物イオンと共に(ii)の逆反応として次の反応(iii)を生じる。
R-CH(NH2)COOH + OH- → R-CH(NH2)COO- + H2O …(iii)
いま, (i)と(iii)の反応速度において, (iii)≪(i)とすると, 最初の第一段階の律速反応は, 反応(iii)がそれに相当し, 酢酸分子中のカルボキシル基と類似の性質を持つR-CH(NH2)COOHのカルボキシル基が水酸化物イオンと中和反応する。この反応(iii)は, 図3を参照して, 中和点は pH = 9.0 付近になると考えられる。
さらに, 水酸化ナトリウム水溶液を滴下すると, その生成されたR-CH(NH2)COO-のイオンは, 水溶液がアルカリ性のため加水分解されず安定化されてそのままの状態で存在するようになる。
そこで, まだ残っている未反応の双生イオンにおいて, (i)の反応が, 第二段階で支配的になる。その中和点はpH>9.0に存在する。
滴下した水酸化ナトリウムが過剰になると, pHはしだいに大きくなり, 図3を参照して, 最終的には一定のpH値に近ずく。
以上から, 滴定曲線は(い)が適合することになる。
問2の答 (う) (お)
脂質は, 生体内に広く分布する有機化合物で, C, H, OおよびHからなり, さらにP, NおよびSを含む場合がある。脂肪酸およびそれに近い誘導体といえる。その特性は,
一般に 1)水および塩類水溶液に不溶, 有機溶媒に可溶, 2)化学構造的に主としてエステル結合した脂肪酸を有する。ただし, スフィンゴリピドでは脂肪酸は酸アミドの形になり,
アセタールホスホリピドでは脂肪酸の代わりに半アセタールあるいはアセタールになったアルデヒドを有する。3)生物体に利用される。構造上から分類すると,
中性脂肪, リン脂質, 糖脂質, ロウ, ステロイド, カロチノイド, テルペン類などがこれに属する。
●油脂は生体内に広く分布し, 脂肪酸とグリセリンとのトリグリセリルエステルすなわちトリグリセリドを主成分とする。天然油脂はその出所から植物油脂と動物油脂とに分類される。また常温で液体の脂肪油(大豆油など)と固体の脂肪(牛脂など)がある。
●化合物Cの分子の示性式は, 脂質に属し, 次のようになる。
CH2(OCOR')C*H(OCOR")CH2OP(O)(O-Na+)OCH2C*H(NH2)COOH …@
化合物Cには, @において, 不斉炭素原子*Cが 2個存在する。
●化合物Cに水酸化ナトリウム水溶液を加えて加熱すると, 次のように加水分解と中和反応が生じる。
CH2(OCOR')C*H(OCOR")CH2OP(O)(O-Na+)OCH2C*H(NH2)COOH + 4NaOH
→ CH2(OH)C*H(OH)CH2OH + R'COONa + R"COONa + O=P(O-Na+)2OCH2C*H(NH2)COONa + H2O
ここで, R'COONa と R"COONa がセッケンに相当する。
●同炭素数の脂肪酸の比較で, 不飽和脂肪酸が飽和脂肪酸の方よりも空気中の酸素により酸化されやすい。例として, 不飽和脂肪酸を多く含む液状(脂肪油)の大豆油などは, 空気中に放置しておくと, 樹脂状に固まる(乾性油)。
●飽和脂肪酸の融点は炭素原子の数が多いものほど高く, 同じ炭素数の脂肪酸の融点を比較したときは二重結合の数が多いものほど低い。
例 飽和脂肪酸の融点…ラウリン酸 C11H23COOH(mp.44℃), ステアリン酸 C17H35COOH(mp.71℃)
同じ炭素数の不飽和脂肪酸の融点
…リノレン酸 C17H29COOH(mp.-11℃), オレイン酸 C17H33COOH(mp.16℃)
問3
(i)の答 302
化合物Cに水酸化ナトリウム水溶液を加えて加熱すると, 次のように加水分解と中和反応が生じる。
CH2(OCOR')C*H(OCOR")CH2OP(O)(O-Na+)OCH2C*H(NH2)COOH + 4NaOH
→ CH2(OH)C*H(OH)CH2OH + R'COONa + R"COONa + O=P(O-Na+)2OCH2C*H(NH2)COONa + H2O …@
問題本文において, Cでは, Aの(1)の位置に炭素数が14の飽和脂肪酸がエステル結合しており, (2)の位置には食品から摂取した脂肪酸Dがエステル結合しているとする。したがって,
反応式@において, R'COOH が炭素数14の飽和脂肪酸 R'COOH = CnH2n+1COOH に相当する。よって分子量が228から次式が成立する。,
12n + (2n + 1) + (12 + 32 + 1) = 228 よって n = 13
化合物Cの示性式は, 次のように書き直される。
CH2(OCOC13H27)C*H(OCOR")CH2OP(O)(O-Na+)OCH2C*H(NH2)COOH
化合物Cに(2)の位置のエステル結合だけを加水分解する酵素を加えると,
CH2(OCOC13H27)C*H(OCOR")CH2OP(O)(O-Na+)OCH2C*H(NH2)COOH + H2O →
CH2(OCOC13H27)C*H(OH)CH2OP(O)(O-Na+)OCH2C*H(NH2)COOH + R"COOH …A
反応式Aにおいて, C + H2O → X + D とすると, CとDの分子量をMCとMDは
MC = 12×21 + 16×10 + 1×38 + 31 + 23 + 14 + R"= 518 + R"
MD = 12 + 33 + R" = 45 + R"
よって,
MD/MC = (45 + R")/(518 + R") = 6.04(g)/15.5(g)
15.5(45 + R") = 6.04(518 + R")
9.46R" = 3128.72 - 697.5 = 2431.22
R" = 257
よって, Dの分子量MDは
MD = 45 + R"= 45 + 257 = 302
(ii)の答 C20H30O2
Dを触媒の存在下で水素付加すると, 分子量 312 の飽和脂肪酸が得られたことから, 問3(i)の答を参照すると,
312 - 302 = 10
上の値 10 は付加した水素原子の数に相当する。不飽和脂肪酸分子にもし1個の二重結合が存在すると, 2個の水素原子が飽和脂肪酸分子と比較して減少し,
分子量値が2減少する。よって, Dの分子には 10/2 = 5個の二重結合が存在する。いま, Dを水素付加で飽和したときの飽和脂肪酸の示性式を
CnH2n+1COOH とすると, 次式が成立する。
12n + (2n + 1) + 12 + 32 + 1 = 312
よって,
14n = 266
n = 19
よって, Dの飽和脂肪酸の示性式は
C19H39COOH
よって, Dの分子式は
C20H30O2