答 元の問題へ
問1の答 : (ア) 酸性) (イ) アルカリ性 (ウ) 5
問2の答 : (I) x + y/2 (II) y/2
問3の答 : (A) KW/K1 (B) KW/K2 (C) K3/K2 (D) 10KWK2
●0.10 mol/L のNaH2PO4水溶液の平衡で, この塩は水中で完全に電離する。
NaH2PO4 → Na+ + H2PO4-
生じたH2PO4-イオンに関しては, (2)式の平衡が成立する。
H2PO4- ⇄ H+ + HPO42- … (2)
K2 = [H+][HPO42-]/[H2PO4-] = 6.2×10-8 mol/L
さらに, 次の平衡が存在する。
H2PO4- + H2O ⇄ H3PO4 + OH- … (4)
(4) の平衡式は次式になる。
K4 = [H3PO4][OH-]/[H2PO4-]
また, (1)の平衡においては, 次の平衡定数 K1 が成立する。
H3PO4 ⇄ H+ + H2PO4- … (1)
K1 = [H+][H2PO4-]/[H3PO4] = 7.5×10-3 mol/L
このK1の式を用いてK4の式を変形すると,
K4 = {[H+][H2PO4-]/K1}×[OH-]/[H2PO4-] = [H+][OH-]/K1 = (A)KW/K1
= (1.0×10-14)/(7.5×10-3) = 0.133×10-11 = 1.33×10-12
K2とK4の比較において,
K2 = [H+][HPO42-]/[H2PO4-] = 6.2×10-8 mol/L
K4 = [H3PO4][OH-]/[H2PO4-] = 1.33×10-12
よって, K2>K4から, 平衡において, 右寄りが大きいのは(2)式である。 したがって, この水溶液は, 水素イオンを多く含み, (ア)酸性を示すことがわかる。
●同様に, 0.10 mol/L のNa2HPO4水溶液の平衡について考えると, まず, この塩が次のように完全電離する。
Na2HPO4 → 2Na+ + HPO42-
生じたHPO42-イオンに関しては, (3)式において平衡定数 K3 が成立する。
HPO42- ⇄ H+ + PO43- … (3)
K3 = [H+][PO43-]/[HPO42-] = 2.1×10-13 mol/L
また, その他に, 次の平衡 (5) が存在する。
HPO42- + H2O ⇄ H2PO4- + OH- … (5)
(5)式の平衡定数 K5 は,
K5 = {[H2PO4-][OH-]}/[HPO42-]
K2を用いて, K5の式を変形すると,
K5 = {[H+][HPO42-]/K2}×[OH-]/[HPO42-] = [H+][OH-]/K2 = (B)KW/K2
= (1.0×10-14)/(6.2×10-8) = 1.6×10-7 mol/L
K3とK5の比較において,
K3 = [H+][PO43-]/[HPO42-] = 2.1×10-13 mol/L
K5 = {[H2PO4-][OH-]}/[HPO42-] = 1.6×10-7 mol/L
よって, K5>K3から, 平衡において右寄りが大きいのは, (5)式で, したがって, この水溶液は, 水酸化物イオンを多く含み, (イ)アルカリ性(または塩基性)を示すことがわかる。
○さらに, このNa2HPO4水溶液の水素イオン濃度 [H+] (mol/L) を表す式を導く。
まず, (2)式と(3)式との組み合わせを考える。
H2PO4- ⇄ H+ + HPO42- … (2)
K2 = [H+][HPO42-]/H2PO4- = 6.2×10-8 mol/L
HPO42- ⇄ H+ + PO43- … (3)
K3 = [H+][PO43-]/[HPO42-] = 2.1×10-13 mol/L
○組合せ:(2) - (3) において, 次の平衡を考える。
2HPO42- ⇄ H2PO4- + PO43- …(6)
(6)式の平衡定数 K6 は, 次式で表される。
K6 = {[H2PO4-][PO43-]}/[HPO42-]2
K3, K5を用いて, K6を変形すると,
K6 = {[H2PO4-][PO43-]}/[HPO42-]2 = {[H2PO4-]/[HPO42-]}×{[PO43-]}/[HPO42-]}
= {K5/[OH-]}×{K3/[H+]} = K3K5/KW = K3(KW/K2)/KW = (C)K3/K2
= (2.1×10-13)(1.6×10-7)/(1.0×10-14) = 3.4×10-6 mol/L
K6の値から, リン酸一水素塩の濃度が 0.10 mol/L の場合, (3), (5), (6)式のうち, (6)式の平衡が最も大きく右方向に偏る。
(3)式と(5)式の平衡定数K3(2.1×10-13 mol/L), K5(1.6×10-7 mol/L)を比較すると, (ウ)(5)式の平衡定数の方が十分に大きい。したがって, (3)式の平衡は無視できる。
[H+] を求めるためには, (5)式と(6)式の2つの次の平衡だけを考慮すればよいことになる。
HPO42- + H2O ⇄ H2PO4- + OH- … (5)
2HPO42- ⇄ H2PO4- + PO43- …(6)
(5)式と(6)式の平衡反応によって消費されるHPO42-イオンの濃度を, それぞれ x (mol/L)と y (mol/L)とおくと, OH-, H2PO4-, HPO42-, PO43- の各イオンのモル濃度は次のように表される。
OH- = x
[H2PO4-] = (I)x + y/2
[HPO42-] = 0.10 - x - y
[PO43-] = (II)y/2
ここで, xとyは, Na2HPO4の完全電離で生じるHPO42-の最初のモル濃度 0.10 mol/L に比べて, 非常に小さいので, 0.10 - x - y ≒ 0.10 と近似できる。
そこで, 下の各式が成立する。
K5 = {[H2PO4-][OH-]}/[HPO42-] = (x + y/2)x/0.1 = KW/K2
K6 = {[H2PO4-][PO43-]}/[HPO42-]2 = (x + y/2)(y/2)/(0.1)2 = K3/K2
よって,
K5 において,
(x + y/2)x = 0.1KW/K2 変形すると 1/x = (x + y/2)/(0.1KW/K2)
K6 において,
(x + y/2)(y/2) = 0.12K3/K2
上の2式の和をとると,
(x + y/2)x + (x + y/2)(y/2) = 0.1KW/K2 + 0.12K3/K2
(x + y/2)2 = 0.1KW/K2 + 0.12K3/K2
よって,
x + y/2 = (0.1KW/K2 + 0.12K3/K2)1/2
一方,
[H+][OH-] = KW
よって, 上の各式から, [H+] (mol/L) は,
[H+] = KW/[OH-] = KW(1/x) = KW(x + y/2)/(0.1KW/K2)
= KW[(0.1KW/K2 + 0.12K3/K2)1/2]/(0.1KW/K2)
= 10K2(0.1KW/K2 + 0.12K3/K2)1/2 = ((D)10KWK2 + K2K3)1/2
問4の答 6.2×10-8 mol/L
NaH2PO4とNa2HPO4の混合水溶液は, 完全電離により次式のようになる。
NaH2PO4 → Na+ + H2PO4-
Na2HPO4 → 2Na+ + HPO42-
したがって, H2PO4- と HPO42- のそれぞれのモル濃度 MH2PO4- と MHPO42- は
MH2PO4- = 0.10/2 = 0.05 mol/L
MHPO42- = 0.10/2 = 0.05 mol/L
さらに, H2PO4- と HPO42- は, 次のようにそれぞれ電離と加水分解してH+ と OH- を生じる。
(a) H2PO4- ⇄ H+ + HPO42- K2 = [H+][HPO42-]/[H2PO4-] = 6.2×10-8 mol/L
(b) H2PO4- + H2O ⇄ H3PO4 + OH- K4 = [H3PO4][OH-]/[H2PO4-] = 1.33×10-12 mol/L
(c) HPO42- ⇄ H+ + PO43- K3 = [H+][PO43-]/[HPO42-] = 2.1×10-13 mol/L
(d) HPO42- + H2O ⇄ H2PO4- + OH- K5 = [H2PO4-][OH-]/[HPO42-] = 1.6×10-7 mol/L
上の各反応において, 平衡定数(問1答解説参照)を比較すると, (b) と (c) は非常に小さいために, この平衡は無視してもよい。したがって,
NaH2PO4とNa2HPO4の水溶液は, 主として, 次の(a)と(d)の平衡状態が存在する。
(a) H2PO4- ⇄ H+ + HPO42- K2 = [H+][HPO42-]/[H2PO4-] = 6.2×10-8 mol/L
(d) HPO42- + H2O ⇄ H2PO4- + OH- K5 = [H2PO4-][OH-]/[HPO42-] = 1.6×10-7 mol/L
混合溶液での (a), (d) の平衡反応によって消費される H2PO4- と HPO42- の濃度を, それぞれ x (mol/L)と y (mol/L)とおくと, H2PO4-, H+, HPO42-, OH- の各イオンのモル濃度は次のように表される。ただし, x, y の値は0.05に比較して非常に小さいとする。
[H2PO4-] = 0.05 - x + y ≒ 0.05
[H+] = x
[HPO42-] = 0.05 - y + x ≒ 0.05
[OH-] = y
よって,
K2 = [H+][HPO42-]/[H2PO4-] = x(0.05)/(0.05) = x
x = [H+] = 6.2×10-8 mol/L
K5 = [H2PO4-][OH-]/[HPO42-] = y(0.05)/(0.05) = y
y = [OH-] = 1.6×10-7 mol/L
x, y の値確認のために,
xy = [H+][OH-] = (6.2×10-8)(1.6×10-7) ≒1.0×10-14 (mol/L)2
問5
(i)の答 塩酸の体積:2.4 ml,
(ii)の答 Δ[H+]/Δ[Cl-] = 3.6×10-6 [説明] 下記
0.10 mol/L のNaH2PO4水溶液 10 ml と 0.10 mol/L の Na2HPO4 水溶液 10 ml の混合溶液において, この緩衝液中の H2PO42- と HPO42- の各物質量を, それぞれ mH2P, mHP とすると,
mH2P = 0.10×(10/1000) = 1.0×10-3 mol
mHP = 1.0×10-3 mol
上述の緩衝液に 0.10 mol/L の塩酸を pH が7.0 になるまで加えたときの体積を V (ml) とする。
そこで, 新平衡状態のH+, H2PO4-, HPO42-, OH- の各モル濃度 [H+]N, [H2PO4-]N, [HPO42-]N, [OH-]N は次のようになる。
ただし, 緩衝液に塩酸を加えると, H+ の物質量が増加するために, ル・シャトリエの法則により, H+ の物質量の一部 x mol が HPO42- と反応して平衡状態式(a)が左辺側に偏る。また, H+ の物質量の一部 y mol がOH- と反応して平衡状態式(d)が右辺側に偏る(問2答解説参照)。
(a):H2PO4- ⇄ H+ + HPO42- … K2 = [H+][HPO42-]/[H2PO4-] = 6.2×10-8 mol/L
(d):HPO42- + H2O ⇄ H2PO4- + OH- … K5 = [H2PO4-][OH-]/[HPO42-] = 1.6×10-7 mol/L
よって,
[H2PO4-]N = 1.0×10-3/{(20 + V)/1000} + x/{(20 + V)/1000} + y/{(20 + V)/1000}
= 1/(20 + V) + 1000x/(20 + V) + 1000y/(20 + V) = {1/(20 + V)}(1 + 1000x
+ 1000y)
[H+]N = 1.0×10-7
[HPO42-]N = 1.0×10-3/{(20 + V)/1000} - x/{(20 + V)/1000} - y/{(20 + V)/1000}
= 1/(20 + V) - 1000x/(20 + V) - 1000y/(20 + V) = {1/(20 + V)}(1 - 1000x
- 1000y)
[OH-]N = 1.0×10-7 - 1000y/(20 + V)
よって,
K2 = [H+]N[HPO42-]N/[H2PO4-]N
= [1.0×10-7][{1/(20 + V)}(1 - 1000x - 1000y)]/[{1/(20 + V)}(1 + 1000x + 1000y)]
= 6.2×10-8
(1 - 1000x - 1000y)/(1 + 1000x + 1000y) = 0.62
1 - (1000x + 1000y) = 0.62(1 + 1000x + 1000y)
1620x + 1620y = 0.38
x + y = 2.35×10-4
K5 = [OH-][H2PO4-]/[HPO42-]
= [1.0×10-7 - 1000y/(20 + V)][(1 + 1000x + 1000y)]/[(1 - 1000x - 1000y)]
= 1.6×10-7
[1.0×10-7(20 + V) - 1000y][(1 + 1000x + 1000y)]/[(1 - 1000x - 1000y)]
= 1.6×10-7(20 + V)
{(20 + V) - 1010y}(1 + 1000x + 1000y) = 1.6(20 + V)(1 - 1000x - 1000y)
{(20 + V) - 1010y}(1 + 0.235) = 1.6(20 + V)(1 - 0.235)
1.235{(20 + V) - 1010y} = 1.224(20 + V)
0.011(20 + V) = 1.235×1010y
y = 0.00891×10-10(20 + V) = 8.91×10-13(20 + V)
よって,
x + y = x + 8.91×10-13(20 + V) ≒ x
x = 2.35×10-4 mol
そこで, 0.10 mol/L の塩酸を pH が7.0 になるまで加えたとき, その体積を V (ml) としているので, 次式が成立する。
0.10×(V/1000) = 2.35×10-4
V = 2.35 ml
塩酸の添加による水素イオン濃度増加量(Δ[H+])と塩化物イオン濃度増加量(Δ[Cl-])の比,
Δ[H+]/Δ[Cl-] は次のようになる。
Δ[H+] = (1.0×10-7) - (6.2×10-8) = 0.38×10-7 mol/L
0.10 mol/L-塩酸が完全解離しているとして,
Δ[Cl-] = 2.35×10-4/(20 + 2.35)/1000 = 0.235/22.35 = 0.0105 mol/L
よって,
Δ[H+]/Δ[Cl-] = (0.38×10-7)/0.0105 ≒ 3.6×10-6
[別解]
0.10 mol/L のNaH2PO4水溶液 10 ml と 0.10 mol/L の Na2HPO4 水溶液 10 ml の混合溶液において, この緩衝液中の H2PO42- と HPO42- の各モル濃度は, それぞれ MH2P, MHP とすると,
MH2P = 0.10×(10/1000)×(1000/20) = 0.05 mol/L
MMHP = 0.05 mol/L
上述の緩衝液に 0.10 mol/L の塩酸を pH が7.0 になるまで加えたときの体積を V (ml) とする。そこで, 新平衡状態のH+, H2PO4-, HPO42- の各モル濃度 [H+]N, [H2PO4-]N, [HPO42-]N は次のようになる。ただし, 緩衝液に塩酸を加えると, H+ が増加するために, ル・シャトリエの法則により, x mol/L の H+ が HPO42- と反応して下の平衡状態式が左辺側に偏るとする。また, 塩酸を添加しても MH2PとMMHP はほとんど変化しなとする。