3章B 類題4-1(0081124)               TOP-B 



[問題] タンパク質に関する次の本文を読んで下の各問いに答えなさい。

タンパク質分子の表面には親水性と疎水性の領域が存在している。タンパク質を水に溶かすと, 水分子は, タンパク質分子表面の親水性領域では安定に水和するけれども, 疎水性領域では不安定で分離しやすい。
タンパク質水溶液に多量の塩を加えると, 塩によってタンパク質分子表面の疎水性領域で弱く水和している水分子が奪われ, 露出したアミノ酸側鎖を介してタンパク質分子間で弱い結合が起こる。その結果として, タンパク質は機能を保持したまま沈澱する場合がある。この現象を塩析という。
水溶液中のタンパク質分子は, 表面の露出したアミノ酸側鎖のアミノ基とカルボキシル基が変化して双生イオンになる。その双生イオン中の正負の電荷がつりあって正味の電荷がゼロになるpH値が存在する。このpH値を等電点という。
等電点はタンパク質のアミノ酸組成によって様々な値をとる。等電点の違いを利用して複数のタンパク質の混合水溶液から目的のタンパク質を精製することができる。
いま, 2種類のタンパク質A, Bの混合水溶液がある。Aの等電点は5.0である。この混合水溶液の入ったビーカーに高濃度の硫酸アンモニウム水溶液を十分量加えて塩析によりA, Bを沈澱させた。この沈澱をろ過により集め, 少量の蒸留水で完全に溶かし, 濃縮液をえた。濃縮液中には硫酸アンモニウムが残存していた。
@濃縮液の一部を半透膜のセロハンの袋に入れ, 液が漏れないようにした。この袋をpH7.0の緩衝液の入っているビーカーに入れ, 一定時間ごとに数回ビーカーの緩衝液を交換した。その後, セロハンの袋からタンパク質水溶液を回収した。このような操作を透析という。残りの濃縮液は, pH3.0の緩衝液を用いて@の同じ順序で透析を行った。
ある樹脂は, 正味の電荷が負のタンパク質と結合するが, 正味の電荷が正のタンパク質とは結合しない。
この樹脂の粉末を図1のように注射器の筒に充填した。注射器の底には粉末が漏れないようにろ紙を敷いた。次に, pH7.0の緩衝液で透析したタンパク質水溶液を図2のように注射器の筒に入れると, A, Bのうち, 一方は樹脂と結合したが, 他方は結合せず樹脂を通り抜けた。
また, A同じ樹脂をつめた別の注射器の筒を用意し, pH3.0の緩衝液で透析したタンパク質水溶液を注射器の筒に入れる実験を行った
             (image194)
       図1…樹脂の粉末を充填した注射器の筒と三角フラスコ
       図2…タンパク質水溶液を注射器の筒に入れ通り抜けた水溶液
         (1:樹脂, 2:ろ紙, 3:タンパク質水溶液)

問1 水溶液中のタンパク質が沈澱する現象には塩析以外に変性がある。タンパク質の変性が塩析と異なる点を説明しなさい。

                    

問2 本文の下線部@の透析操作を行った結果, セロハン袋中の濃縮液はどのように変化しましたか。半透膜の役割も含めて簡潔に説明しなさい。

                    

問3 本文の下線部Aの実験結果として最も可能性の高いものを以下の(ア)〜(エ)から選びなさい。また, その理由も簡潔に記述しなさい。ただし, 緩衝液中のイオンと樹脂の相互作用は, タンパク質と樹脂との結合には影響しないものとする。また, pH3.0で, A, Bはどちらも変性せず, 樹脂の性質も変化しなかったとする。

(ア) Aは樹脂と結合し, Bは樹脂を通り抜けた。
(イ) Aは樹脂を通り抜け, Bは樹脂と結合した。
(ウ) A, Bとも樹脂と結合した。
(エ) A, Bとも樹脂を通り抜けた。