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問1の答15( ④ )


 ヒント

 ④は誤りで, [濃塩酸]を → [濃硫酸]にすると正しくなる。


 ①において,

● 鉄鉱石からの鋼(こう)までの製錬(鉱石から金属を取り出す操作)の過程は次の○1と○2のようになる。

 ○1 溶鉱炉(高炉)中で

        鉄鉱石 + (コークスと石灰岩) → 熱風(空気)中の鉄鉱石を還元 → 銑鉄 + スラグ + 高炉ガス

 ○2 転炉中で

        溶融銑鉄 + 酸素 → 鋼

 ここで,

 鉄鉱石…赤鉄鉱(主成分はFe2O3, 元素組成で Fe:約67%, O:約30%, Ti, Mg, etc.)や磁鉄鉱(主成分はFe3O4, 化学組成で Fe2O3:約67%, FeO:約28%, Al2O3:約1.2%, etc.)など。

 コークス…コークスは石炭の高温乾留によって得られる多孔質の炭素質(C組成が約93%)固体。

 石灰岩…CaCO3 が主成分で, Mg や Si などの元素も含まれる。

 銑鉄…高炭素含(C組成が約3.5%以上, そのほかに 微量の Si, Mn, P, S など含む)の鉄で, 主として製鋼用のものと鋳物用のものに区別される。溶鉱炉中では重いので炉の底の一番下にたまる。

 スラグ…一般に鉱物質原料の溶融で生じる非金属物質。ケイ酸性スラグと非ケイ酸性スラグの2つに分類される。製鉄溶鉱炉中ではケイ酸性スラグで主成分は CaSiO3 で, 炉の底で銑鉄の上にたまる。

 高炉ガス…鉄鉱石製錬で溶鉱炉から排出されるガスである。ガス組成は CO:約25%, CO2:約13%, N2:約57%, そのほかに, 二酸化硫黄, 水素, メタンなどが存在する。

 鋼…鉄‐炭素系をベースとした合金。炭素鋼(主成分の炭素 約0.04~1.7%を含む可鍛性の鉄炭素合金, 炭素以外に微量のケイ素やマンガンなどを含む)と特殊鋼(炭素鋼に1種または2種以上の金属元素などを添加した合金)に分けられる。


 ○1と○2の反応を, 化学式の観点から考えると, まず溶鉱炉において,

 高温でコークス炭素の反応 :       2C + O2 → 2CO …(i)

 石灰石主成分の分解 :          CaCO3 → CaO + CO2 …(ii)

 赤鉄鉱主成分と生成された CO との還元反応 :

                       Fe2O3 + 3CO → 2Fe + 3CO2 …(iii)

 ただし, 実際には, 生成された Fe 中には複雑な状態での C などを含んでいる。

 (i)~(iii)を1つの反応式にまとめると, 3(i) + (ii) + 2(iii) から

           3(2C + O2) + CaCO3 + 2(Fe2O3 + 3CO)→ 6CO + CaO + CO2 + 2(2Fe + 3CO2)

                 2Fe2O3 + CaCO3 + 6C + 3O2 → 4Fe + CaO + 7CO2 …(iv)

 生成された CaO と鉄鉱石, コークスや石灰石中のケイ酸との反応によるスラグ生成 :

                         CaO + SiO2 → CaSiO3 …(v)

 (iv)と(v)を1つの反応式にまとめると, (iv) + (v) から

               2Fe2O3 + CaCO3 + SiO2 + 6C + 3O2 → 4Fe + CaSiO3 + 7CO2

 高温の転炉では, 酸素を使用すると

                       Fe・nC + mO2 → Fe・(n - 2m)C + 2mCO

 ただし, Fe・nC は炭素を含む銑鉄を表わしている。酸化反応で鉄中に含まれる炭素などの量を酸素の酸化反応によって調整することで性質を変えた鋼 Fe・(n - 2m)C をつくることが可能である。

②において,

● 工業的製法のアンモニアは, 水素と窒素とから鉄系触媒(アルミナやカリウムの助触媒添加)を使用して, 200~500atm 程度の高圧, 500℃程度の高温で合成される。

 ○1 この合成法はハ-ボシュ・ボッシュ法として知られている。合成塔を中心に精製装置, 循環圧縮機, 分離器などから成り立っている。

 ○2 出発物質としての水素と窒素は次のようにして得られる。

  水素…(1) 天然ガス, コークス, 重油などの炭素質に酸素(または空気)と水蒸気を吹き込み, 燃焼させて水性ガス(主成分は水素と一酸化炭素)を生成後, その中から水素を分離する。(2) 水や食塩水の電気分解で陰極から取り出す。

  窒素…液体空気の分留(窒素と酸素の沸点差を利用, 窒素の沸点 -196℃, 酸素の沸点 -183℃)。

       液体空気は, 空気を臨界温度以下に冷却し同時に加圧することでつくられる。

 以上の窒素と水素からのアンモニアへの直接的反応は, 可逆反応で, その平衡式と熱化学方程式は次のようになり, 発熱反応である。

                        N2(気) + 3H2(気) ⇄ 2NH3(気)

                      N2(気) + 3H2(気) = 2NH3(気) + 91.8 kJ

 上の式とル・シャトリエの平衡移動の法則から, アンモニアの転化率をなるべく大きくするためには, なるべく高圧と低温にすればよいことが分かる。
 工業的には, ひとつの例において, 反応速度も考慮し, 水素と窒素のモル比を 1:3 とし, 圧力 200 atm, 温度 500℃で行われる。この場合のアンモニアの転化率はおよそ 20% である。

③において,

● 硝酸の工業的製法は, 現在では, アンモニア酸化法が使用されている。すなわち, まず, アンモニアと酸素(または空気)の混合気体を酸化炉の中で白金触媒を用いて次式のように酸化反応により一酸化窒素 NO を生成する。

                        4NH3 + 5O2 ⇄ 4NO + 6H2O …(i)

 熱化学方程式で記述すると, 次式のようになり, 発熱反応である。

                        4NH3 + 5O2 = 4NO + 6H2O + 906.7 kJ

 次に, 上の反応後の混合気体をさらに酸化して二酸化窒素 NO2 を生成する。

                           2NO + O2 → NO2 …(ii)

 最後に, 二酸化窒素を水に吸収させて硝酸を得る。

                        3NO2 + H2O → 2HNO3 + NO …(iii)

 上の式をひとつにまとめると, 3×(i) + 6×(ii) + 2×(iii),

                        12NH3 + 15O2 ⇄ 12NO + 18H2O
                          12NO + 6O2 → 6NO2
                        6NO2 + 2H2O → 4HNO3 + 2NO

                     12NH3 + 21O2 → 4HNO3 + 2NO + 16H2O

 以前は, 天然産チリ硝石(主成分は硝酸ナトリウム NaNO3)に硫酸を加えることでつくらていた。

                       NaNO3 + H2SO4 → NaHSO4 + HNO3

                       NaHSO4 + NaNO3 → Na2SO4 + HNO3

 この塩と酸および塩と塩の反応からの硝酸生成は, 工業的にはチリ硝石不足とともにほとんど行われていない。実験室ではよく用いられる。

④において,

● フッ化水素 HF は, 工業的には, 蛍石(主成分はフッ化カルシウム CaF2)と濃硫酸の加熱反応でつくられる。

                      CaF2 + H2SO4 → CaSO4 + 2HF

⑤において,

● 酸素(沸点 1atmで -183℃)は, 工業的には, 液体空気(②●の○2参照)にいくぶん加圧したガス状空気を通し, 蒸発熱によって窒素(沸点 -196℃)の分留を促進すると, 液体酸素(液体空気の95%以上)として得られる。


問2の答16( ⑤ )


 ヒント

 ⑤は誤りで, [溶けやすい]を → [溶けにくい]にすると正しくなる。


 ④と⑤において,

● イオン化傾向列 K > Ca > Na > Mg > Al > Zn > Fe > Ni > Sn > Pb > (H2) > Cu > Hg > Ag > Pt > Au

 鉛 Pb のイオン化傾向はスズ Sn のイオン化傾向より小であるので, 鉛 Pb の方が反応しにくく溶けにくい。

 イオン化傾向…一般に, 自由電子が多く存在する金属は水に浸すと溶けて電子を放出する傾向がある。しかし, 金 Au などはその表面のエネルギー状態が水では特殊なために電子を放出しにくい。

 各金属のイオン化傾向を種々の方法で比較することによってその大小を決めることができる。金属のイオン化傾向の大から小への順番をイオン化傾向列という。イオン化傾向の大きい金属ほど不安定で反応性が強い。

● 鉛 Pb の標準電極電位 EΘ(Pb2+ + 2e- → Pb, EΘ= -0.13 V) とスズ Sn の標準電極電位 EΘ(Sn2+ + 2e- → Sn, EΘ= -0.14 V) を比較すると, 鉛の方がわずかに大きいので希塩酸中の H+ と反応しにくく溶けにくい。

 標準電極電位…半電池の水素基準電極(1mol/L HCl 水溶液中の水素ガス付着Pt極,)の対極としてある物質の電極( 1mol/L のその物質イオン水溶液中の電極)を使用して電池をつくると起電力が生じる。

 水素基準電極の起電力を 0 V として, 各物質の電極の起電力を測定すると, 各物質の電位が決まる。その電位を標準電極電位または単極電位という。標準電極電位の小さいものほど還元剤としての強さが大きい。言い換えれば, 電子を放出して酸化されやすいことになる。単極電位の大小はイオン化傾向の大小に対応する。


問3の答17( ③ )・答18( ⑤ )  ただし 17( ⑤ )・答18( ③ ) でもよい。


 ヒント

 元素の周期表を参照して, 酸性酸化物と両性酸化物を選択する。


 ①~④の酸化物において,

● 水中で次のような反応が起きる。

 ① 塩基性酸化物 Na2O では        Na2O + H2O → 2NaOH …(i)

 ② 塩基性酸化物 MgO では         MgO + H2O → Mg(OH)2 …(ii)

 ③ 酸性酸化物 P4O10 では         P4O10 + 6H2O → 4H3PO4 …(iii)

 ④ 塩基性酸化物 CaO では         CaO + H2O → Ca(OH)2 …(iv)

 ⑤ 両性酸化物 ZnO では           ZnO + 3H2O → H2[Zn(OH)4] …(v)

 以上の(i)~(v)の生成物で, 水溶液中の強塩基 (いま, 水酸化ナトリウム NaOH とする) と中和反応して塩をつくるものは, (iii)と(v)が適合し, その反応式は次のようになる。

                      H3PO4 + 3NaOH → Na3PO4 + 3H2O

                      H2[Zn(OH)4] + 2NaOH → Na2[Zn(OH)4] + 2H2O


問4の答19( ② )


 ヒント

 ②は誤りで, [還元される]を → [酸化される]にすると正しくなる。


①において

● ①の塩とうすい酸との反応での気体発生において, その反応式は, 次のようになる。

                   2NaHSO3 + H2SO4 → Na2SO4 + 2SO2 + 2H2O

②において,

● ②の酸化還元反応において, 硫化水素は, 下式のように電子を放出して酸化され(還元剤),

                       H2S → S + 2H+ + 2e-

 ヨウ素はその電子を次式のように吸収して還元される(酸化剤)。

                       I2 + 2e- → 2I-

 ひとつの式にまとめると

                       H2S + I2 → 2HI + S

③において,

● 水に難溶性の硫化水素は, 次式のように平衡状態で電離し, 1mol の硫化水素分子から 2mol の水素イオンを生じる(2価の弱酸)。

                        H2S ⇄ 2H+ + S2-

④において,

● 濃硫酸の脱水反応において,

                  C12H22O11 → 12C (黒色) + 11H2O (硫酸脱水)

⑤において,

● 濃硫酸を水に加えると, 溶解熱を生じ発熱する。その熱化学方程式は,

                     H2SO4(液) + aq = H2SO4(aq) + 95.3 kJ

 ここで, aq は多量の水を表わす。


問5の答20( ① )


 ヒント

 ①は誤りで, [沈殿は生じない]を → [沈殿は生じる]にすると正しくなる


 ①において,

● 硫酸銅(II)水溶液では, 硫酸銅(II) CuSO4 は次式のように電離している。

                         CuSO4 → Cu2+ + SO42- …(i)

● 希硫酸水溶液中では, 硫酸 H2SO4 は,

                         H2SO4 → 2H+ + SO42- …(ii)

 一方, 弱酸の硫化水素 H2S は, 平衡状態で,

                         H2S ⇄ 2H+ + S2- …(iii)

 ここで, (iii)式の硫化物イオン S2- の濃度は, (i)式の銅イオン(II) Cu2+ だけを効率良く沈殿させるために, (ii)式において適当量の硫酸から生成される水素イオン H+ で調整されている(緩衝液)。

● よって, (i)式と(iii)式から生成された銅イオン(II) Cu2+ と硫化物イオン S2- が反応して, 次のように黒褐色の硫化銅(II) CuS が沈殿する。

                           Cu2+ + S2- → CuS

 ②において,

● アンモニア水溶液中では, 弱塩基のアンモニアは, 平衡状態で, 次のように電離して水酸化物イオン OH- を形成する。

                           NH3 + H2O ⇄ NH4+ + OH-

 少量のアンモニア水では, 少量の水酸化物イオン OH- が存在し, 水溶液中の銅イオン(II) Cu2+ と反応して青白色の Cu(OH)2 の沈殿が生じる。

                        Cu2+ + 2OH- → Cu(OH)2 (青白色沈殿)

 さらに, アンモニア水を加えると, 青色のテトラアンミン銅(II)イオン [Cu(NH3)4]2+ の錯イオンを形成して溶ける。

                       Cu2+ + 4NH3 → [Cu(NH3)4]2+ (青色溶液)

 ③において,

● 亜鉛と銅のイオン化傾向 Zn > Cu を考慮すると, 亜鉛 Zn の粒は電子を放出し(酸化され),

                         Zn → Zn2+ + 2e-

 一方, 硫酸銅(II)水溶液中の銅イオン Cu2+ は電子を吸収し(還元され),

                         Cu2+ + 2e- → Cu (単体の銅が析出)

 ④と⑤において,

● 純銅を得るための銅の電解精錬において, 硫酸銅(II)水溶液中の銅の陰極(-)は, 外部の直流電源の負極に接続されているので, その銅表面で次の反応が生じ, 純銅が得られ, 陰極の重量が徐々に増加する。

                   陰極(-) :    Cu2+ + 2e- → Cu

 直流電源の正極に接続されている金や鉄などの不純物を含む粗銅の陽極(+)は, 次の反応が生じ, 重量が徐々に減少する。

                   陽極(+) :    Cu → Cu2+ + 2e-

 粗銅に含まれる金などは, 銅よりイオン化傾向が小さいために, 陽極下に陽極泥としてたまる。鉄などは, 銅よりイオン化傾向が大きいために, 電源の電圧調整で陽イオンとして水に溶けたままとなる。